「厳選採用を演じる企業」と「就活を演じる学生」の矛盾

尾藤 克之

例年、就活シーズンになるとお約束の光景が繰り広げられる。就活支援会社は「ミスマッチの問題点」をうたい人気企業ランキングを発表する。受け入れる企業側も「ミスマッチを軽減するための施策」を打ち出す。


●毎年繰り返されるお約束
人気企業ランキングとは今年の採用市場で人気が高い企業を就活支援会社が勝手にランク付けして発表するものだ。残念ながらメイキングされているケースが多い。上位にランキングインしている企業は取引額が大きいクライアントだろう。就活支援会社にとって人気企業ランキングは自社サービスを肯定する営業ツールとしても使い勝手が良いのである。

最近は、ミスマッチ軽減の一環として、一般的な学力検査や面接以外に「事業プランを発表」するものまで出現してきているそうである。評価のポイントはどの辺りなのだろうか。プレゼンの質か?それとも事業の内容だろうか?

就業経験のない学生に事業プランを描くことは困難だろう。プレゼンの質を高めたいなら鏡の前に立って何回もロールプレイを繰り返していれば相当なレベルにまで引き上げられる。事業プランの質を高めたいならシンクタンクやコンサルティング会社に就職した先輩に手伝ってもらえば効果的だ。ドキュメントのなかから就活に使えそうなものをピックアップしてもらい受験する企業用にリライトすれば秀逸な事業プランが完成する。

●「採用」と「就活」の機会損失
大手企業の大卒生涯賃金は約3億円とされている。これに年金や退職金が加算されるからかなりの投資だ。どのような人材が適しているのだろうか?まず大手企業では、数年毎に異動が発生するので適応力が高く汎用性が高いことが求められる。スペシャリストではなくゼネラリストとしてのキャリアを望み、理不尽な処遇があっても文句を言わない忠誠心の高い人材が理想である。さらに有名大学出身者であれば申し分は無い。

学生は、大学が用意する就活ゼミやセミナーで「エントリーシートの書き方」や「面接スキル」を学んでいく。しかし企業は大学名でスクリーニングをおこなっている。学生は「大学名不問。人物重視で採用する」という建て前を信じるため、例年、大手企業に応募が集中することになる。

企業は「学歴差別が存在することを明らかにして厳選採用をするフリ」を止めなくてはいけない。ところが企業にとって学生は大切なお客様だから、学歴差別が存在することを公にはできない。自社の商品を買っていただけるお客様に失礼な対応はできないからである。仮に落ちたとしても、ネガティブな印象を持つことなくフェーズアウトしてもらう必要性がある。そのためには厳選採用を演出しなくてはいけない。

就活ナビは、申込企業から掲載料を頂戴して情報を掲載することで成立するビジネスである。企業と学生の正しい橋渡しする存在ではないから掲載企業にとってマイナスになる情報は掲載されない。ところが、いまの時代は、ソーシャルメディアの普及によりネガティブな情報を隠すほうが難しくなっている。むしろ隠すほうが滑稽になる場合がある。「厳選採用を演じる企業」と「就活を演じる学生」の矛盾は双方にとって大きな機会損失をもたらすことになる。もはや見直す時期にきていると思われる。

尾藤克之
経営コンサルタント
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