山本リンダの「もうどうにも止まらない」と言っても 「それなに?」とスルーされてしまいそうですが、音楽のデジタル化が引き起こした音楽コンテンツの低価格化と音楽ビジネス縮小の流れがまた加速しそうです。日本でも定額音楽配信サービスが本格的に始まるからです。音楽のデジタル化というパンドラの箱がもたらした「もうどうにも止まらない」、いやおそらく「止めようのない」流れです。
ユーザーにとっては、また選択肢が増えて歓迎すべきことです。しかし、もしかすると音楽の業界地図が塗り変わるだけで、ビジネスの世界では誰も勝者がないままに、これまでの一貫した傾向である音楽市場の縮小がまた進むことになりそうだからです。
主要国別の音楽売り上げ動向をグラフ化してみる(2015年)(最新) – ガベージニュース
確かに有料音楽配信の売上は伸びてきましたが、一曲ずつ、またアルバムを購入するビジネスをリードしてきたアップルのiTunesの音楽売上はさっぱり成長が止まってしまっています。
図はAsymcoより引用
定額音楽配信では先行し、音楽配信を伸ばしてきた代表格のスポティファイは、売上高は、2014年も前年比で45%増の10億800万ユーロ(およそ1,500億円)で元気印ですが、さらに赤字が拡大し、1億6200万ユーロ(およそ225億円)の純損失を計上しています。つまり、売上は伸びても利益がでないビジネスの域からまだ卒業できていないのです。
Spotify、2014年の売上高がついに10億ユーロを超える。音楽配信で攻勢続くも損失は拡大
日本の場合はレンタルCDが強いこともあって、まだCD売上比率が高いために、音楽市場の規模がアメリカにつぐ世界第二位ですが、音楽市場の金額規模は縮小しつづけています。もうミリオンセラーもアルバムではひとつかふたつ程度しかでなくなってしまいました。
ニューヨーク・タイムズが稀有な日本の音楽市場を紹介。未だに売上げ85%をCDが占める現状をどう報じたか?
一般社団法人 日本レコード協会|各種統計
さて、 定額音楽配信サービスの本格スタートでどう変化するのでしょうか。その鍵を紐解くキーワードは佐々木俊尚さんが「電子書籍の衝撃」で提起された音楽の「アンビエント化」(環境音楽化)です。
生活者から見れば、CDアルバムを買ったり、iTunesのように楽曲をネットで買えたり、さらにYoutubeでもプロモーションビデオを見ながら聴け
るとか音楽のデジタル化は、音楽の入手経路を多様化させ、また音楽を聴く場所、また聴く方法もどんどん広げてきました。さらにアナログの世界に戻って、
LPレコードを聴くこともできます。デジタル化は生活者に音楽を楽しむ体験を広げてきました。
しかし、音楽のデジタル化で、どんどん所有する音楽が増え、そしていつでもどこでも好きな音楽を聴ける、そうなると音楽はどんどん空気のような存在になっていきます。それが「アンビエント化」で、当然商品としての価値は低下し、価格が下がっていきます。価値を感じるのは実際にアーティストと場を感動を共有できるライブだけということになってくるのも当然です。
そう考えると、定額音楽配信サービスもユーザーにとっては歓迎だとしても、ビジネスとしては相当厳しく、その割には競争が極めて激しい世界になってくるのだと思います。音楽以外のサービスと組合せて利益を稼ぎだす仕組みで成功するところが勝者として残るのかもしれません。