偽りの採用

尾藤 克之

最近、学歴フィルターに関する議論が活発になっています。学歴フィルターとは学生が企業にエントリーをする際、偏差値の高い有名大学の学生が他大学よりも優先的にエントリーができるというものです。実は、このような当たり前のことが何故いまさらクローズアップされるのか不思議な感じがします。

●就活ナビという存在
企業にエントリーする際にはエントリーフォームにプロフィールを記入しなければいけません。このエントリーフォームが就活ナビといわれているシステムです。就活ナビは、申込企業から掲載料を頂戴して情報を掲載することで成立するビジネスです。企業と学生の橋渡しする存在ではありませんから、学生に対して公平な機会を与える装置ではありません。
 
就活ナビは、Windows95が発売され、ネットが一般化してきた1996~1997年に多くが上市されました。この頃からネットを活用した採用が一般化してきますが、母集団を管理するためには、大学名、出身地などの属性別に管理をする必要があります。企業は入力された情報に対して選考結果のフラグを立てたり、採用人数の進捗を確認します。学生情報をもとに個別囲い込みをするなら偏差値の高い有名大学にアプローチが集中することは自然の流れです。

学歴フィルターという存在は、ネットが一般化する前から存在します。昭和40年代に遡れば、いまよりも遥かに辛らつな学歴採用が存在していました。日本を代表する重厚長大型企業や金融機関の多くは、大学別による幹部候補生採用を明確に打ち出していました。いまだにその流れが残っていますが、変わったことは企業がオブラートに包むようになったことです。学生も呼応するように採用に必要な情報をオブラートに包むようになりました。

●学歴フィルターは悪なのか
実は学歴と社会的成功の相関関係はありません。高学歴でも社会で成功するとは限りません。高学歴でなくても良好な人間関係を構築できる人は社会的に成功する可能性が高いと言われています。ところが、就業経験のない学生の、人間関係構築力などEQ的側面を試験や面接で測定することはかなりの労力を要します。企業側は目に見える指標として学歴を用いているだけなので、学歴フィルター自体に問題はないと考えられます。

ネットが普及する以前においては、大学名を記載しなくても専攻と現住所のみで大学名を特定する業者が存在しました。SNSの利用が一般化した現代においては、瑣末な情報から個人情報は容易に特定されると考えたほうが良いでしょう。個人情報漏洩がニュースになることがありますが、図書館で古い電話帳を閲覧すればそこは個人情報の山が存在します。

いまは企業と学生の双方が必要な情報をオブラートに包んでいますから、適切な採用の実施が難しくなります。

尾藤克之
経営コンサルタント
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