「ナポレオンの村」第1回が良作で次回から心配な件

どうも新田です。凡人の私の辞書には不可能の文字ばっか載っております。ところでテレビドラマの2015年7月クールの主要作品が大体、出揃ってきたところでしょうか。昨晩は4月クールの「天皇の料理番」でハマったTBSの日曜劇場の新ドラマ「ナポレオンの村」を見たのですが、「大方、今の地方創生モノかよ。とりあえず、あまり期待しないで一応見てみようか」と思っていたところ、予想外に良作だったので、その魅力と課題の分析をサクッと致しましょうか。


※7月クールの主役に躍り出るか(TBSサイトより)

■唐沢さんの熱男キャラが炸裂
このドラマのネタ本は小説ではなく、限界集落を立ち直らせた市役所職員の自伝的ノンフィクション「ローマ法王に米を食べさせた男」。


まだ読んでないけど、ドラマが面白かったので後でアマゾンポチりますという独り言は小声でシレッと告白しておきつつ、まずは観ていない人向けにサクッと設定紹介。ドラマでは、東京都内の過疎集落に設定を変更し、やたらに意識高くて異常に熱男な主人公の公務員を唐沢寿明さんが演じ、意気揚々と年寄りだらけの廃村寸前の限界集落に乗り込んで、終始ハイテンションで攻めまくりの活性化へ動き始めます。

唐沢さんの役柄といえば、近年は「不毛地帯」の“瀬島龍三”役とか、去年の日曜劇場4月クールの「ルーズヴェルト・ゲーム」の家電メーカー社長のような頭脳明晰でクールな人柄のリーダー役が目立っておりますが、今春は日テレで刑事ドラマで熱男を絵に描いたような主人公を久々に演じて往年の暑苦しさが蘇ってきました。今回のドラマは公務員を演じているので若干、トーンをやや中立にしているものの、畑ですっ転んだおばあちゃんを助けて、「スーツは僕の作業着」なんて平気な顔して泥で汚しちゃうわ、地域にどんどん溶け込んじゃうわ、行動面で実にエネルギッシュな人物像になっております。

■コミカルな演出で堅いお話を柔らかく
唐沢さんが演じる浅井栄治は、都庁から現地の市役所に出向してくる設定なのですが、役所内は浅井とは全く対照的なやる気ナシ男・ナシ子さんたちばかり。17時キッカリに一斉に退庁し、紛失した保険証の再発行手続きに来た年寄りをたらい回しするのも平気。いずれもコミカルに描いているのですが、デフォルメとはいえ、視聴者にお役所体質のエッセンスを外さずに伝え、視聴者に最低限の“リアリティー”を感じさせようと努めています。お局職員が「公務員の世界は減点主義」という言葉の意味するところを、新人の女の子に説明させるあたりは、まさにその真骨頂でしょう。

唐沢さんの熱男ぶりと、コミカルなほどのお役所体質を露骨に見せる職員たち。そしてイッセー尾形さんやほっしゃん。さんらが生き生きと停滞ムードの村民たちを演じているわけですが、全体的にポジティブなトーンが伝わってきます。実はそのことがポイントのように感じるのは、「地方創生」「市役所」「限界集落」といったお堅く、根暗なネタをわかりやすく、あえて描いてみせることで視聴者の関心を集め、飽きさせない展開になっています。同じ地方創生ネタでもNHKの「限界集落株式会社」は、主人公が反町隆史さん演じる朴訥な農家さんで、初回でおじいちゃんが死んじゃったりなど暗さも散見されました。

いや、もちろん、そちらの方がまだリアリティーがあるかもしれないし、そもそも、地方創生実践者の方々から見れば「そんなに現場は甘くねえぞ、カス」とばかりに木下斉さんが東洋経済オンラインで「ナポレオンの村は虚構だ!」的な炎上必至の記事をぶち込んでくるのかもしれませんが、そこはドラマなので大目に見ましょう。え?反町さんと唐沢さんは同じ事務所で片方がヒットしたら事務所内に微妙な空気が流れるんじゃないかって?静かにしろ、反町選手は10月から新しい相棒だぞ。

■映画的な作り方に思えた脚本構成
さて、「ナポレオンの村」の脚本は仁志光佑さん。彼の作品は「MOZU」シリーズしか見たことがないのですが、ストーリー構成が実に正統派で視聴者を安心させます。すなわち、主人公が周りを翻弄させつつ、第1回のミッション(村祭りで新企画「スカイランタン」を敢行して賑わいを作る)へと爆進するメインストーリー。ここにスカイランタンを作る和紙職人のおばあちゃんと、村を捨てて市街地に映った息子が相克を乗り越えるかどうかというサイドストーリーを絡ませます。

最後は祭りが成功するかどうかギリギリまで予断を許さない展開になるので、見逃した方はTBSが近日オンエアするであろう再放送をぜひ見ていただきたいですが、脚本作りとして、もしサイドストーリーをあと2本くらい絡ませれば、2時間映画として十分成立する程と思える完成度だと思います。むしろ、第1回から全力投球しちゃって、次回から投げる球あるのかよ的な不安も覚えちゃうくらいなんですが。

あとは、唐沢さん演じる浅井が、なぜそれほどまでに限界集落の再生にやる気満々なのか。第1回で麻生久美子さんとのやり取りでそれっぽいことを話してましたが、なんだか腑に落ちない。「実は・・・だった」的な説得力のある真相を今後描けるかどうかが課題で、もう少しミステリアスに盛り上げてもいいような気がします。

まー、とりあえず、連休明け発表の視聴率がどうなのか注目です。

■屋上屋を架しただけの「花燃ゆ」版”大奥”
そういや、この番組が始まる前はNHK大河史上稀に見る低空滑降がもはや定着した「花燃ゆ」。先日銀座駅の地下道を歩いていて広告に出くわしたんですが、なんですかこれは。まるで別のドラマ。

吉田松陰や松下村塾の影も形も、もうどっかに消えてしまった感じで、「大奥」ものに一大リニューアルしたつもりが(ていうか長州藩に大奥ないけど)、どことなく屋上屋を架している感満載に呆然です。「篤姫」にハマった視聴者を呼び込む魂胆丸出しが逆に面白くて少しは変わったかと思って「ナポレオンの村」が始まる前にちょっと覗いてみたけど、なぜか新人奥女中が乃木坂46勢揃いだったりして、どの視聴者層を狙っているのか、もうマーケティングセンスの欠片も感じられません。もう花は燃え尽きてしまったようです。ではでは。
新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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