Airbnbは日本で普及するか?

岡本 裕明

友人や親せきが来て客間に泊まっていくことは日本でもごく普通のシーンですが、見ず知らずの人が来て金銭の授受を伴って人を泊めたいでしょうか?最近、Airbnbという海外発の民家宿泊の仲介サービスをする会社が大きく伸びており、日本でもそのビジネスチャンスに虎視眈々と参入の機会を狙っているようです。

しかし、日本には大きなハードルがあります。果たして、会社の思惑通りチャンスはあるのでしょうか?

先日、取引先である日本の不動産業者のオーナーと話していたところ、「不動産屋も仲介ばかりでは大手にかなわなくなりました。そこで事業の多角化の一環でAirbnbを取り込んだ事業を始めようと思っております。」とまじめな顔をして述べます。このオーナーさんに思わず、「しかし、日本では旅館業法の壁があるのはご存知ですよね。」と返したところ、もごもごし始めました。まさか、知らない筈はないだろうと思ったので「御社のように信用を最大のセールスポイントとして不動産業を行っている会社がAirbnbで法律違反を犯して、挙句に事故でも起こしたらどうするのですか?」ととどめを刺しておきました。

旅館業法では宿泊期間においては1か月を一つの区切りとしています。それより短ければ一時滞在で厚労省の担当、それより長ければ「生活の本拠」(旅館業法)ということで賃貸借契約となり、国交省の範疇になります。もっと平たく言えば1か月未満は厚労省、それより長ければ国交省の範疇という縦割り行政の典型と考えてもよいでしょう。同じような縦割りはサービス付老人ホームと高齢者向け賃貸住宅が厚労省と国交省の取り合いで国民サービスの基本そっちのけでやり合っている例もあります。

この旅館業法、国家戦略特区に指定されたところであればこの1か月の規制枠が10日程度(7-10日で調整中)に縮みそうです。但し、現在この戦略特区に指定されているのは東京23区のうち、9つのみ。そして現在、台東、中野、豊島区が第二弾追加候補として調整等が進んでいます。それでも最低宿泊日数は10日程度です。更にこの案、よく読むと外国人が対象で日本人は入っていないように見えます。つまり、日本人がちょいと泊まるのは許されないようなのです。

ハードルはまだあります。一居室の大きさは原則25㎡とあります。こんな広い部屋は都内にそうそうありません。それ以外にも居室に鍵をつけること、外国語の案内(緊急時を含む)など細かい方針が出ています。これを見る限り、国家戦略特区における旅館業法の特例はほとんど形骸化したものになるのはお分かりいただけると思います。つまり、政治家が耳触りのよい案を発表しても実際には役人主導の省庁ではいやいやながらちょっぴりだけ門戸を開いただけで実際にはこの法令基準では誰も入り込めないのであります。

Airbnb、日本で普及しないだろうと思うもう一つの理由があります。それは日本人があまり人を家に呼びこまないことであります。日本人は自宅を自分の城のように捉えているのみならず、基本的に第三者を受け入れるサイズ、間取りを含めた住宅設計思想がありません。例えば客用のシャワーブースはありません。(北米では普通です。)洗面所もトイレも客用はありません。これは不便でしょう。

ビジネスとしてやるなら当然、受け入れるだけの準備は必要ですし、トラブル時の対応も考えておかねばなりません。余っている部屋があるから今晩貸す、といった軽い考えではダメでしょう。海外では泊まった客人が悪者で泥棒をしたケースは結構聞こえてきます。基本的に人にモノを貸すのはモノを壊されるリスクも高くなり、貸主ががっかりすることもあるでしょう。

日本で普及が難しいとされる海外発のビジネスはこのAirbnbとウーバという配車サービスです。日本ではハイヤーのような形で運営されていますが、それは白タクが認められていないからです。そして99.9%日本で白タクが認められることはありません。同じように旅館業法が民家にも簡単に適用されることも99.9%あり得ません。

お上が安全やサービス、事業の健全性を表向き理由にあげますが、要は日本では何かあった時、役所がやり玉に挙げられるため、役人は石橋を3回叩いてそれでも渡らない性格であるからです。このブログで時々指摘していますが、日本は歴史的に民とそれを取り締まる役人(武士)は明白な区別があり、民が民の責任で何か好きなことをするという世界はもともと存在しません。一方の海外では自由がベースでそれを放任しすぎていろいろ問題が出るから少しずつ規制を作るというオープンからクローズへのシフトの違いがあります。

おびただしい成長をしている訪日外国人の増大で宿泊施設の需給関係が悪化していることがこの旅館業法の見直しに大きく影響しています。しかし、私は日本ブームは為替水準がその人気の最大の理由だという点をあえて強調しておきます。オリンピックの時、為替がどうなっているか想定できませんが、物価高の日本のイメージをこの円安ですっかり変えたのが正しい見方だと思います。仮に円が100円程度まで上がってしまったらこのブームは一気に冷めることは間違いありません。例えばカナダとアメリカの旅行者数が為替水準でシーソーゲームを繰り返すことをみても一目瞭然です。そういう意味では我々も為替というあやふやなところでビジネスの議論をしているということでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月20日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。