ロッテ次男と大塚家具長女~PR戦略の巧拙

新田 哲史

どうも新田です。先日、フジテレビさんの番組にお呼びいただきましたが、ロッテ絡みで取材が恐ろしく殺到しておりまして戦争勃発後の軍事評論家状態なこの頃です。いやはや、やっぱりテレビの影響力って凄くて焦ります(汗)。ちなみにロッテとは別件の記事で来週、某週刊誌に私の「識者コメント」が載る見通しで掲載されたら、またお知らせします。



■日本の週刊誌並みにエグい韓国の新聞報道
それにしても、ロッテのお家騒動を巡り、韓国では、日本の大塚家具の一件があった時を上回るような報道が連日繰り広げられているようです。韓国語を理解しない私は、韓国主要紙の日本語版サイトを通じて現地での様子を推察するしかありませんが、日本語版を読む限りは、中央日報が日本で言えば週刊誌レベルにまで踏み込んだエグい記事を連発しており、見応え満点です。

たとえば重光武雄・名誉会長(韓国名・辛格浩)の「判断能力」について。法的根拠が無いにも関わらず、一度は、次男・昭夫会長以下、自分以外の取締役解任を宣言したり、韓国メディア向けに動画に出演して正当性を主張したりなんかして、そのご高齢もあって疑義が持たれているわけなんですが、中央日報はこんな感じです(韓国報道では名誉会長を総括会長と表記)。

<ロッテ経営権紛争>「どこに行ってきたのか」…次男が東京にいたことも忘れた辛格浩総括会長 2015年08月05日11時29分 [中央日報/中央日報日本語版]
長男の辛東主(シン・ドンジュ、重光宏之)前日本ロッテ副会長(61)側が放送を通じて公開した映像は、辛格浩総括会長の健康異常説をさらに強めた。聞き取りにくい韓国語の発音はさておき、2011年に自分が次男を韓国ロッテ会長に任命したことを忘れているようだった。日本ロッテホールディングスを韓国ロッテホールディングスと混乱したりもした。先月31日には総括会長が辛東主前副会長に「誰だ」と3度も尋ねたという話も聞こえる。

これに対し匿名を求めた神経精神科専門医Aは「家族は認知症でないというが、正確なコミュニケーションができる状態ではないと考えられる」とし「高齢で脳の血管が収縮し、多くの毛細血管が詰まっている可能性がある」と説明した。この場合、そばにいる看病人の役割が重要だが、看病人がどんな話をしてもその話を真実だと信じる高齢者が多いということだ。Aは「このような状況で葛藤が家族間の訴訟に広がれば、合意で終わるケースはほとんど見たことがない」と話した。

この精神科医さんは、重光家を診療経験ありのドクターなのか、第三者の医師なのかどちらにも取れるのですが、どちらにせよ、健康異常説が高まっていたとしても、日本の新聞では、記者が情報収集の一環で武雄さんの健康状態を分析するために医師を取材することはあっても、さすがに紙面化はしないでしょう。もし字にするとしたら、武雄名誉会長サイドから病気を認めるようなことがあれば話は別でしょうがね。日本の場合は、文春、新潮、現代、ポストあたりのお仕事になるのが報道の世界の相場というものです。

■長男陣営の炎上マーケに次男陣営が“翻弄”
いずれにせよ、武雄会長を実質的に籠絡している長男の宏之さんサイドが騒げば騒ぐほど、ロッテグループの印象は地に落ちます。日本はそんなに報道も過熱してませんが、韓国では、世論や政界で批判が沸騰しており、次男昭夫さんも韓国国民に謝罪。「ロッテは日本企業なのか?韓国企業なのか?」という世間の批判に配慮して、日本のメディアには滅多に見せない韓国語で報道陣の取材に応じておりますが、沸騰した世論の前に焼け石に水というのが、ここまでの状態に見えます。

※次男昭夫氏の謝罪を報じる中央日報の電子版記事

私は現在、報道の現場を離れて、企業や政治家のメディア戦略を作る仕事をしているので、メディア対応の視点からも感じるところは多々あるわけですが、父・長男陣営と次男陣営の間の「情報合戦」という点では、次男サイドが後手に回っている印象です。もちろん、父・長男陣営のメディア戦略は所詮自分本位で奇襲攻撃を連発して炎上マーケティングしているだけであり、ロッテブランドを傷つけているだけなんですが、次男サイドは目下、株主総会での経営権奪取が最優先ということもあって、世論対策も遅れているのではないでしょうか。

■大塚家具の影に“軍師・電通”あり
そういえば、同じお家騒動で勃発した大塚家具のケースでは、ロッテの次男サイドに当たる大塚久美子社長陣営は、株主総会での勝利後、お詫びセールを決行して自らも陣頭指揮に立ち、さらには、父娘の親子ゲンカをネタにしたとも取れるテレビCMも放映する等、話題作り、世論のつかみ方、メディア戦略が実にうまかったのが記憶に新しいところ。

ダイヤモンドオンラインでも真壁昭夫先生が『大塚家具に学ぶ「災い転じて福となす」方法』なんて記事を書くくらい有識者も褒めちゃうくらいなんですが、あまりのあざとさに軍師の影を感じていたところ、電通PRが指南していて、「やっぱりさすがですね」って感じです。

※大塚久美子社長の報道対応の内幕レポートを報じた広報会議の記事(アドタイより)

まぁ、しかし、その取り組みを広報会議で誇らしげに宣伝しており、まだ法廷闘争終わって無いのにからくりの構造を見てしまったような印象で、ビミョーな蛇足感を覚えるのはご愛嬌というところでしょうか。電通PRさんの気前の良さに震えます。

アメリカでは、プロキシファイト(委任状争奪戦)が勃発すると専門のPRや危機管理のコンサルが活動するんですが、ロッテも次男昭夫会長はアメリカ型の経営を熟知されているわけですから、アメリカや韓国のコンサル、あるいは日頃のCMでのお付き合いがある電通さんあたりに世論対策の依頼はすでにしていると見るのが自然でしょう。ていうかしてなかったらヤバイけど。

昭夫会長が、大塚久美子社長のように、経営権も世論の流れも総取りするだけの、したたかなPR戦略が展開されるのか、非常に興味深いところです。ではでは。
新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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