夏恒例の「24時間テレビ」がはじまります。今年の24時間テレビのチャレンジは遠泳です。チャレンジャーとして、齋藤美羽さんが鹿児島県錦江湾を遠泳します。24時間テレビにとって遠泳は馴染みの深い競技です。過去には、パラリンピック水泳の金メダリスト成田真由美さんが同じ錦江湾で12キロの遠泳に挑戦し8時間をかけて完泳したことがあります。
●理解されにくいチャレンジ
しかし残念ながら番組の意図とは異なり、障害者のチャレンジを理解できない人は非常に多いようです。番組の好みは本人の自由かも知れませんが、特定の障害者のチャレンジを揶揄したり中傷することは許されるものではありません。多くの方は日頃からどのような福祉活動を実践しているのでしょうか。
私がライフワークとして、社会福祉団体を運営していることはこれまでも述べていますが、そのきっかけとなった出来事があります。それは15歳の時の、ある少年との出会いでした。彼は私と同い年でふっくらとした頬と明るい笑顔に特徴がありました。そしてお気に入りの芸能人のブロマイドを持ち歩く普通の中学生でした。私と異なっていた点は筋ジストロフィー症を患っていた点です。既に余命は1年と宣告されていました。
この年の、社会福祉活動は八丈島で開催されました。約100名の障害者が参加していましたが、彼は八丈島にそびえ立つ八丈富士を登りたいといいます。理由は、命が燃え尽きるまで一分一秒を大切に生きたいから。2時間をかけて頂上に登り眼下の青い海を見ながら「これが最後だろうな」と呟きました。そして16歳を前にした同年12月に彼は旅立ちました。※この記録は、当時、ロケに同行していたフジテレビ「ワイドワイドフジ」にも特集(八丈富士は知っていた)として取り上げられました。
筋ジストロフィー症ですから自立で歩くことはできません。ボランティアの学生が抱きかかえながら登ります。それを「自力ではない」「偽善である」と揶揄するのでしょうか。もし、24時間テレビの障害者のチャレンジを偽善という方がいるなら、当時の私の行動もそう見えるのでしょう。
私は、それ以降、微力ではあるものの、我が国の社会福祉領域に貢献できればとライフワークとして障害者支援をおこなっています。福祉先進国であるアメリカを見習って、学生になってからは毎年一定の寄付もおこなっています。
●非営利組織の人気が高いアメリカ
今回も、錦江湾はサメがでるから危険であるとか、遭難したら海上保安庁の手をわずらわせるとか、ドーバー海峡の34kmよりも短いので話題にもならないとか、色々な意見があるようですが、これは非常に残念なことです。
アメリカでは、就職先としてNPOが選択されることが珍しくありません。有名な非営利組織として「ティーチ・フォー・アメリカ(Teach For America、TFA)」があります。2007年にはビジネスウィーク誌が調査したアメリカの学部学生の就職先人気ランキングの10位に入り、2010年には全米文系学生の就職先人気ランキングで、Google、Appleを抑えて1位となっています。内定を取得するための難易度は非常に高く、数十倍の倍率です。
アメリカではNPOは雇用創出に大きな役割を担っており就業者数は世界一で総雇用数の約1割にも及びます。寄付市場の規模も年間約3,000億ドルで福祉先進国としての意識が高い点も、環境を後押しするかたちになっています。
ニッセイ基礎研究所の調査によればアメリカの寄付の特徴として個人寄付の割合が70%以上と高く、個人として寄付行為が浸透している点をあげています。1人辺りの年間寄付額を算出すると、アメリカが62,237円に対して、日本が5,431円です。約11倍の開きがあります。
イギリスに本部がある「国際救護団体Charities Aid Foundation(CAF)」によれば、2012年に世界146カ国の15.5万人を対象に寄付やボランティアに関する調査を行った結果、個人の寄付活動が最も活発な国を順位別でならべると以下のとおりになります。1位オーストラリア、2位アイルランド、3位カナダ、4位ニュージーランド、5位アメリカ。なお、日本は85位で先進国のなかでも最低レベルです。
日本では、個人レベルの意識が遠く及びませんから、24時間テレビに課せられた使命と期待は大きいものと拝察します。単に批判の声を荒げても何も変わりません。私は行動をすることで応えていきたいと考えています。
追伸
先月末、高橋伸明(元トランザム)さんの訃報に接しました。国際障害者年のNHKテーマソング「地球の仲間」を担当され、ユニセフ・メッセンジャーとしてもご支援をいただきました。謹んで哀悼の意を表します。
●尾藤克之
ジャーナリスト/経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業の役員等を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)、『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など。
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