これは最初と最後に強調されたように、有識者懇談会とくに北岡伸一氏の歴史観が影響していると思われる。そこでは満州事変の原因を「不戦条約以降の戦争違法化の流れへの挑戦」と書いているが、首相談話でも第1次大戦以降の国際協調の歴史に時間をさき、満州事変については次のように述べた。
満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。
そして談話が最後に「私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます」と繰り返して結ばれるのは印象的である。近代戦に正しい戦争と悪い戦争の区別はないので、「おわび」なんて意味がない。国際秩序を武力で変えること自体が危険なのだ。
ちょうど今週のEconomist誌は、中国を特集している。その表紙にはペンを銃のようにもつ習近平国家主席の合成写真がある。その心は「歴史問題が中国の武器として使われる」という意味だ。
彼は9月に行なわれる対日戦争の勝利を記念する軍事パレードに、国家主席として初めて出席するという。日中戦争で、軍事的に弱体だった中国は1000万人ともいわれる犠牲者を出した。今度はその教訓に学び、強大な軍事力を築いている。その標的は「危険な安倍政権」である。
もちろんそんな話はナンセンスだ、とEconomistは指摘する。日本のように衰退する国が、国際秩序に挑戦することはありえない。戦前の日本に似ているのは、経済的には「一等国」になったが、政治的にはまだ十分認められていないと感じ、そのプレゼンスを軍事的に示そうとする国――今の中国である。
多くのアジア諸国が中国の脅威を恐れているが、アジアにはEUもNATOもない。一党独裁の巨大国家が太平洋をアメリカと二分割しようと動き始めたとき、止められる国は日本しかない。その日本が国会で「どこまでなら自衛隊が出動できるか」などと手の内をさらしているのは、愚かというほかない。