ハフポストが怯えたステマ狩り旋風の背景

新田 哲史

どうも新田です。ハフィントンポストによるステマ“えん罪”事件ですが、一方的に投稿者の記事を名指した記事は、どういうわけか掲載翌日、トップページから姿を消してしまいました(記事は6日23時時点で削除されていませんが、一応魚拓済み、笑)。読者の皆様へと大切なお知らせであるはずなのに、そそくさと消したあたり、やはり後ろめたさを感じているんでしょうかね。


※ステマ狩りの背景に広告業界とPR業界の綱引き!? (C)zcool.com.cn

ところで、編集部が拙速なほどに記事削除を始めたのには、一連のステマ狩り旋風に危機感を覚えたからなのには言うまでもありません。ここのところ急に吹き荒れてきた事態の背景を、中長期的な視点で見ていくと、下記2点があるのかなと思います。

①ネットメディアのマス化
ここ何か月か私もテレビ出演のオファーや週刊誌の取材が入ったりしたきっかけの一つが、アゴラやブロゴス等のネットメディアでした。週刊ポストの場合はオッさん記者でしたが、テレビの制作現場の中核がそろそろ、学生時代に携帯やネットが普及していた30歳前後が担いつつあり、ネタ探しの一環でネットを使うのは当たり前になっています。

このあたり、私が記者だった5年前までと空気感が変わってきているように思います。ただ、さすがに無名のブログ開設者に取材はまだリスクがあるものの、知名度のあるネットメディアなら耳を傾けてみようということでしょう。裏を返せば新聞、テレビ、雑誌等のマスのコンテンツとの流動性が出てきている分、ネット側も少なくとも大手ネット企業や出版社系のミドルメディアについては「もうネットだからなんでもOK」という時代ではなくなってきたわけです。

投稿する人間は伝統メディアのジャーナリスト並みのクオリティーや倫理観が要求されるでしょうし、掲載側のフィルタリングも同様なわけです。ただ、校閲専門スタッフを専門に置いているのはNewsPicksくらいなので、大多数のネットメディアの編集受け体制が貧弱な中では、頭が痛いわけですが。ハフポストも果敢に取り組んだのはいいものの、フライングになったわけで、朝日本社の指導のもと、しっかりと出直していただければと思います。

※「ハフポスト読者の皆様へ」と題したステマ排除の告知記事

②広告業界とPR業界のバトル!?
メディア側の事情の次は、広告業界の事情もあるように思います。ステマ狩り旋風で錦の御旗にされているのが、インターネット広告協議会(JIAA)なる団体が今年3月に発表した「ネイティブ広告に関するガイドライン」です。Cnet Japanの記事にあるように「ユーザー(消費者)に受け入れられやすい広告体験を提供するものと期待される一方、掲載方法や内容によっては、消費者が騙されたと感じやすいという課題が指摘されている」というのが背景にありまして、もちろん、ジャーナリズムとアドのファイヤーウォールを守るという見地から妥当であることは言うまでもありません。

反面、水戸黄門の印籠ばりに振りかざれているガイドラインと、その権威の源になっているJIAAなる団体についての「正統性」はどういうものでしょうか。たしかに電通や博報堂、アサツーDK等の広告業界の主要プレイヤー、ならびに大手新聞、民放キー局、ヤフー等の主要ネット企業が軒並み顔を揃えているので、ある意味、新聞業界でいうところの日本新聞協会的な存在になっているように見えます。一方、広告会社とともに企業のマーケティングコミュニケーションの一翼を担っているPR業界からは、電通系列の電通PRやビルコム等の何社かは面子に入っているものの、あえて名前を書きませんが、広告PR業界なら誰も知っているPR会社の主要プレイヤーは入っておらず、様子見の模様ではないかと見受けます。

JIAAに未加盟のあるPR会社の社長は、「JIAAは編集と広告を峻別する原理主義者たちの集まり」と渋い顔をされます。まあ、だからと言ってステマの放置はよくありませんが、ここ10年ほど、「広告が効かなくなった」みたいな話があって戦略PRとか、◯◯マーケティングのような魔法がもてはやされ、かつては黒子に徹してたPR会社がビジネスメディアでもてはやされる時代でした。実際、コンペ案件でPR会社に仕事をかっさらわれた大手広告会社もおりまして、宣伝広告費が限られTVCM出稿が難しい中小ベンチャー案件では、ある種のせめぎ合いが起きているようにも見えます。反面、電博を始め広告会社側も動画やウェブ配信等で旧来型の広告にとどまらない統合型運用にシフトし、「広告のPR化」も進んでいます。

■経営・広告・PRの垣根は崩れている
そういえば、電通あたりの優秀なコンサルタントはグロービスでMBAを取ったりして経営戦略と一体的になったマーケ戦略を提案するようになるなど、代理店界隈では「経営」「広告」「PR」という縦割り・住み分けが崩れつつあるわけで、PR業界の奥の手ともいえる手段を次々に封じに入ったと見る向きもあります(注・JIAAガイドラインをプロモートしている山本一郎さんたちは純粋に取り組んでいるはずです)。もしかしたら、一連の反ステマ旋風の根っこには、そうした広告業界側の逆襲的な意図が潜んでいるのかもしれませんが、経産省や消費者庁が乗り出してくるとロクでもないので、まずは業界内の自浄作用が望ましいのかもしれません。まあ、このあたりは私も知らないことが多い業界なので、穿ち過ぎた見方でしょうか。

過渡期に伴う混乱と、それに巻き込まれた犠牲者が出てしまうことは避けられないのかもしれませんが、少なくとも、ハフィントンポストが拙速に動いてやらかしてしまった件については、再調査と、登録ブロガーへの説明等、丁寧な段取りをして仕切り直しを図ることを望みつつ、業界の健全なる発展を祈りたいと思います。そういえば、今週金曜日は朝日新聞の「9・11」1周年ですね。色々と動くのでしょうか。ではでは。

新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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