野党こそ、反転攻勢は経済政策で --- 玉木 雄一郎

通常国会会期末に、安倍総理が新しい経済政策を発表した。
その中心は、「新3本の矢」として掲げた「強い経済」、「子育て支援」、「社会保障」である。
しかし、そもそもなぜ「今日からアベノミクスの第2ステージが始まる」のかよく分からない。多くの経済専門家も苦笑している。


まず、第1ステージのアベノミクス政策はいつ終わり、どこまで実現したのか、悪いけれども全く不明である。安保法制から目をそらす目的にしても、ちょっと出来が悪過ぎる。

国民を惑わす例として分かりやすいのは、「介護離職者ゼロを目指す」ために特別養護老人ホームの建設を増やすという政策だ。「施設から在宅へ」というこれまでの政策との関係はどうなっているのか。矛盾するのではないか。

また、いくら施設を作っても、そこで働く介護人材の確保ができなければ絵に描いたモチになる。4月からの介護報酬引き下げで、介護人材の離職や介護事業所の廃業が増えているが、こうした事態を是正するのが先だろう。

さらに、安倍総理は名目GDPを600兆円に増やすと発表した。これもすでに内閣府が7月に公表した「中長期の経済財政に関する試算」出てくる数字の焼き直しである。

しかも、この試算は極めて楽観的な前提に基づいてつくられていて、専門家からも実現可能性に疑問が示されている代物である。

例えば、2年後から生産性(TFP)がいきなり現在の3倍(0.7→2.2)に跳ね上がることになっている。しかも、これは昭和58年から平成5年の生産性の平均値で、日本経済がイケイケの時代の数字。楽観的過ぎる前提だ。

また、仮に600兆円を実現した際(2021年)には、名目長期金利が4.2%に上昇することになっている。経済が成長するのだから金利が上がるのが当然だ。しかし、1000兆円以上の借金があるので、その時の利子の払いは膨大になる。

実際、内閣府の試算でも、2021年には、借金返しの費用である「国債費」(39.8兆円)が、年金、医療、介護にかかる費用である「社会保障関係費」(37.9兆円)を上回ることになっている。

こんな世界を、安倍総理は目指しているのだろうか。


しかし、これほど支離滅裂な経済政策でも、民主党時代より、安倍政権の方がちゃんとやっているように国民には映っている。

安保法案の強行採決をしても、安倍政権の支持率がそれほど下がらない理由の一つは、経済政策に期待があるためだと思う。

野党の政党支持率が上がらない理由も、安保法制への対応が悪いというよりも、それ以外の政策、とりわけ経済政策についての信頼がないからだと思う。

しかし、今回の「新3本の矢」の政策をはじめ、安倍政権の経済政策は、結局のところ、じゃぶじゃぶの金融政策と、バラマキ的な財政政策のコンビネーションだ。

民主党政権時代の予算をはるかに超える100兆円規模の概算要求、基金やファンドという名の”埋蔵金”は増える一方、国家公務員の天下りは見事なまでに復活している。

第3の矢として期待された規制改革も進んでいない。例えば、全く中身のない農協改革を「カイカク、カイカク」と叫んでいるが、実情を知っている関係者は冷笑してる。

確かに株価は上がったが、皆さんの大切な年金保険料が、これまでの倍の水準で株に突っ込まれていることを、どれだけの国民がご存知だろうか。

1年間で約15兆円の運用益が出ていると安倍総理は胸を張るが、この3か月で7~8兆円程度の運用赤字が出ているはずだ。株は上がることもあれば下がることもある。年金資金をリスクにさらすべきではない。

今、私たちがやるべきは、問題の多いアベノミクスに代わる経済政策を打ち出していくことだ。

信頼できる経済政策があれば、今後、安保法制の廃止、見直しを国民各層に訴えていくうえでも、それは大きな力になるだろう。

そして、皆さんに信頼してもらえる経済政策や哲学を取りまとめること、そのことが、野党結集の一番の近道にもなると考えている。


編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2015年9月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。