見当違いの「闘い」で助かるのは誰か


丸善ジュンク堂の渋谷店が「自由と民主主義のための必読書50」というキャンペーンをやって「ジュンク堂渋谷非公式」と称するツイッターアカウントが政治的な宣伝を繰り返し、書店はこのアカウントを削除して本を撤去した。

こういうキャンペーンをやるのは本屋の勝手だが、店員がツイッターで「年明けからは選挙キャンペーンをやります!夏の参院選まではうちも闘うと決めましたので!」などと繰り返すのはお笑いだ。ジュンク堂は、どうやって選挙で安倍政権と闘うのか。

彼らが「イチオシ」している『民主主義ってこれだ!』の版元が大月書店であることでも明らかなように、ここに並んでいる本の大部分はいつもの左翼系出版社のいつもの本だ。反原発派が勢いを失った中で、左翼の最後のよりどころが「安保法」なのだろう。どの本でも、内田樹、小熊英二、高橋源一郎、香山リカなど同じ筆者が同じ話を繰り返している。

共産党が「国民連合政府」を提唱するのも、彼らが「民主連合政府」を提唱した1970年ごろに状況が似ていると見たからだろう。かつて社共共闘は70年代に多くの「革新自治体」を生んだが、バラマキ福祉で全滅した。その後も野党は「憲法を守れ」以外の争点で結集できないが、こんなものは左翼でもリベラルでもない。世界のどこにも、一国平和主義の左翼なんて存在しない。

彼らが有害なのは、本質的な政治的アジェンダを見えなくしているからだ。1950年代には安全保障は重要な問題だったが、今では共産党まで自衛隊と日米同盟を認めたのだから、違憲状態を解消するには憲法を改正するしかない。彼らがいくら騒いでも、すでに成立した安保法を廃止することはできない。

それより政府債務は1100兆円を超え、そのうち消費税率は30%になるだろう。それを負担するのは、デモで騒いでいるシールズの学生だ。かつてウォール街で行なわれた「1%が99%を搾取している」というデモはアメリカの抱える本質的な問題だったが、日本で起こっている格差は、今の老人世代が今後数十年にわたって将来世代を搾取することなのだ。

しかも安倍政権は、その消費税を軽減して将来世代の負担を増やそうとしている。数百人の頭の悪い学生が安保反対のデモをやっても、内閣支持率は上がっている。こういう見当違いの「闘い」で助かるのは、老人の既得権を守る安倍政権である。