単位取得が目的になったボランティア活動の違和感

(ボランティア活動に従事する湯本氏。写真前列中央)

最近、大学などの教育機関におけるボランティア活動のニーズが高まっています。使用済み切手、葉書、ベルマーク、ロータスクーポンなどを集める収集ボランティアがオーソドックスな活動です。そして、いま最も注目されているのが2020年のパラリンピックに向けた障害者支援に関連するボランティア活動です。活動内容は、障害者施設でサポートをしたり一緒に外出したり、衣食住をともにして身のまわりの世話をするものまで多種多様です。

今回は、社会福祉の位置づけをより鳥瞰するために、障害者支援の活動に取組んでいる音楽家の湯本拓也さん(ミュージシャン)に話を伺いました。

●ボランティア活動を通じて感じたこと

—現在されている活動と経緯について教えてください。

湯本拓也(以下、湯本) 障害者と健常者が共同生活をする活動に参加しています。昨年、一昨年は新潟県の六日町、今年は長野県の志賀高原で200名程度を集めたイベントが開催されました。開催する場所、宿泊地を決定するための下見や準備などの裏方から、イベント中は運営本部や看護師との連携係、私自身も10名程度のグループを受け持ちました。

また、学校では社会福祉を専攻しており修了時に介護福祉士の資格を取得していました。その後、音楽活動をはじめたので、音楽に関連したチャリティ活動などをおこなっています。新潟県の六日町で開催されたイベントではチャリティ活動に従事する間慎太郎さん(シンガーソングライター。タレント間寛平さんの長男)と演奏する機会がありました。

—障害者支援について問題意識があれば教えてください。

湯本 内閣府が提唱している障害者基本計画には「障害者の自立と社会参加の支援」「共に生きる社会を作る」がテーマとして掲げられています。障害者と共に生きるということは、それぞれが抱える障害を認め、理解して向き合うことだと思います。それは決して難しいことではありません。

障害に対する誤った考えを払拭するには、まずは障害を理解しなくてはいけません。障害の本質を捉えるには多くの知識や実践が必要だと思いますが、まずは障害を理解する意識が必要です。障害を理解する意識とは「障害とは何かを学ぶ姿勢」ではないかと思います。

最近、ボランティア活動で単位取得が可能な学校が増えていますが、単位取得が目的になると本末転倒ではないかと思います。まずは障害を理解することが前提としてあり、理解をするための実践としてボランティア活動があり、理解ができたら単位を与えるのが本来の流れのはずです。ボランティア活動は単位を取得するための手段では無いはずです。

●制度ではなく理解を深めなくてはいけない

—日本の福祉をどのように分析していますか。

湯本 福祉先進国と呼ばれる国々では、障害者と健常者が「共存」しているように思います。日本ではどうでしょうか。障害者と健常者が一緒に働く企業、娯楽を共にする施設、はたまた日常の中で買い物をするお店、食事をとるお店などその多くが限定されています。

日本の福祉制度が福祉先進国と比較して劣っているわけではありません。しかし、障害者や福祉に対する国民の理解がまだまだ足りないのではと感じることはあります。私たちが正しい理解を深めるためにも、知識と実践の両面が学べる何らかの施策は必要ではないかと思います。 

ボランティア精神とは、誰もが実践できる素晴らしいビジョンです。ボランティアとその献身の意義は変わらないからです。これからも音楽活動を通じながら、自分に何ができるのかを考え伝えていきたいと思います。

—ありがとうございました。

1972年に米国ペンシルバニア州裁判所は「障害の如何を問わず、すべての子供はその能力に応じて教育を受ける権利を有する」(PARC判決)と宣言しています。これは、差別的な教育に対する是正を求めたものであり、教育のダンピング(教育の放棄)を招く危険性があることへの警告です。

内閣府の平成26年度障害者雇用状況によれば日本における障害者数は、身体障害者366.3万人(人口千人当たり29人)、知的障害者54.7万人(同4人)、精神障害者320.1万人(同25人)であり、国民の6%が何らかの障害を有するとしています。障害者政策は私たちにとって喫緊の課題でもあるのです。

尾藤克之
経営コンサルタント/ジャーナリスト