久しぶりのコラムだ。刺激を受けるとコラムを書きたくなるものだ。今回のワシントンD.C.訪問は、そういう意味では大きな刺激と興奮を得た。
前回ワシントンD.C.を訪問したのは、12年前だった。たまたま前回もウィルソン・センターからのお誘いだった。(ワシントンでのスピーチ参照)。
その12年間、米国に毎年2、3回のペースで訪問していたが、ワシントンD.C.に来ることは無かった。NY(含むフィラデルフィア・コネチカット)、ボストン、シカゴ(含むミシガン)、サンフランシスコ・ベイエリア、LAの5地域が多かった。投資家やベンチャー企業訪問、カンファレンスへの参加、母校の卒業生理事会への参加等が目的なので、その5地域が中心となる。
今回なぜワシントンD.C.を訪問することになったかを、かいつまんで説明していこう。G1の議論の中で、米国におけるロビー活動の重要性が頻繁に話題に上がっていた。特に米国のシンクタンクにおける日本のプレゼンスが低下していることが問題視されることが多かった。そこで、意識の中で、米国シンクタンクとの関係をどうやって作っていくのかを漠然と考えていた。
そんな中、今年のダボス会議の場で、米国で唯一議会が創った超党派のシンクタンクであるウィルソン・センターからお誘いを受けた。
(ダボス会議2015年~3)ダボス会議3日目の風景「ダボスは巨大な発信基地だ」参照)。
そこで積極的に発言したのが目に止まったのか、後にグローバル・アドバイザリー・カウンシルに任命された。5月に初回の会合がパリであったが、グロービスの卒業式と重なってしまい、参加できず。今回が僕にとって初回のグローバル・アドバイザリー・カウンシル(以降、GAC)への参加となった。
どうせ行くならば、12年ぶりにスピーチをしようと思い立ち、3泊4日の旅程でのワシントンD.C.訪問が決まった。訪米のスケジュールが近づくにつれて、登壇者の名前が判明した。ワオ!の連続である。
国防長官のアシュトン・カーター氏、大統領首席補佐官のデニス・マクドノー氏。さらには、共和党の上院リーダーのミッチ・マコーネル氏、そしてあの元下院議長のニュート・ギングリッチ氏だ。
ウィルソン・センターのCEOであるジェーン・ハーマン氏は、18年間も下院議員を務めてきた大物だ。会長は、トム・ナイズ氏で元国務省副長官兼現モルガン・スタンレー副会長だ。まぁ、凄いメンバーですよ。
僕が、選ばれたのが不思議なくらいだ。そして訪米の当日を迎えた。10月28日の夜に成田を出発して、ワシントンD.C.に到着した。
着くなりその夜は、友人の新聞記者である山脇岳志氏、在ワシントンD.C.の女性起業家である久能祐子氏とディナーだ。3人とも偶然に京大の卒業生だ。経済、科学、政治と話は尽きない。あっと言う間に時間が経ち、その後、日本でも親しくしているデビッド・アッシャー氏の紹介で、数名の米国人とバーで飲んだ。来られたメンバーも普段会わない人ばかりだ。インテリジェンスのトップだった人、退役軍人等だ。実に刺激的だ。
やはりワシントンD.C.は、パワーが集中していて面白い。翌日は、友人でもある元下院議員のマーク・ケネディー氏と朝食。その後久能祐子さんの御自宅を訪問し、ハルシオン・センターを視察した。いやー、素晴らしかった。とても、感銘を受けた。
15時からは、ウィルソン・センターでスピーチだ。30分間喋って、30分間質疑応答をした。反響はとても良かったようだ。スピーチ後に時間があったので、ホワイトハウスまで散策して、首都を堪能した。紅葉が美しい。
(スピーチについては、リンク先を参照)
そして、夜には、国防長官を交えた食事会だ。国防長官のカーター氏がスピーチで、「南シナ海での航行の自由は、国際法に則って担保され続ける。米軍は、あの海域にコミットし続ける」と強調していた。
米国の中国観は、この2年間でガラっと変わり、悪化した。一方、日本への見方は、安倍政権になってガラッと好転した。今や、日本は米国の最も信頼できる同盟国だ。
ワシントンD.C.3日目の朝。朝3時に起床し、メールを全て終わらせて、5時15分から東京とウェブ会議で繋ぎ、教員総会に参加した。終えたのちに、着替えて、ウィルソン・センターのグローバル・アドバイザリー・カウンシル(GAC)へと歩いて向かった。朝食会が、大統領主席補佐官デニス・マクドノー氏との意見交換会だ。ここからの議論の内容は語れないのが残念だ。
その後、引き続き共和党リーダーのミッチ・マコーネル氏だ。その後、元陸軍大将でCIA長官でもあったデヴィッド・ペトレイアス氏による中国、エネルギー、中東に関する議論だ。そして、ランチがニュート・ギングリッチ氏。その後にグループに分かれた議論を実施した。僕は、「デジタルの未来」の議論に参加した。そして最後のクロージングセッションで、議論がまとめられた。
夕食会は、共同議長の邸宅で行われた。ポトマック川のほとりにあるとても見晴らしが良いところだ。夕暮れ時に景色を楽しみ、夕食会のテーブルに着席した。全員で20名強が1つの大きなテーブルに腰かけた。その夕食会も刺激的だった。一切世間話をせずに、3時間にわたって、今までの議論に基づいて、GACメンバーが懸念点を上げ、それに関して参加者が議論する形式をとっていた。
内容を話せないのが残念だが、シリア難民問題、ロシアにおけるウクライナ侵攻、アフリカ問題、中東イスラエルとパレスチナの問題、ヨーロッパや、中南米の現況に関する意見交換だ。僕は、北朝鮮と、南シナ海における問題とAIIB(アジアインフラ投資銀行)に対する欧州(特に英国)の足並みの乱れを懸念点として上げた。
そして、夜9時過ぎにお開きとなった。ホテルに戻っても、頭がフル回転していた。興奮が覚めやらない。
まずは、圧倒的な知的水準の高さが印象深かった。米国CIAと英国MI6のインテリジェンスのトップだった人が参加しているのだ。そのインサイトの深さには圧倒される。英国は、軍事費を削減しても、インテリジェンスだけは減らさない。それだけ、インテリジェンスが重要なのだ。さらに、そこにミリタリー、国務省、投資銀行の経験等が加わるのだ。日本もインテリジェンスを圧倒的に強化する必要性を痛感させられた。まだまだ認識が甘すぎると思う。政権に強く呼びかけていきたい。
また、ワシントンD.C.のあり方にも考えさせられた。米国の意思決定プロセスは、複雑だ。ロシアはプーチン、中国は習近平主席が決める。だが、米国は違う。ホワイトハウスや議会が最終的に意思決定するが、その周りのシンクタンク、大学、メディア、それらに影響力がある商工会議所や労働組合、そして、ネットの存在がある。さらに、様々な国、企業がロビー活動をしている。
米国での意思決定や判断が世界を変える。だからこそ、ここにプレゼンスを持ち、政策にインパクトを与えるべく、地道に人間関係をつくり、活動する必要があるのだ。
僕にとっては、12年ぶりのワシントンD.C.訪問だったが、定期的に来ようと思う。今回は、国防長官、政府高官や議会の共和党リーダーさらには、インテリジェンス・コミュニティとの意見交換ができて本当に有意義だった。
翌朝、ダレス空港で、サミュエル・アダムスで一人乾杯した。今回の海外出張は、とても有意義だった。ワシントンに集結する、政治、経済、シンクタンク、軍事・諜報の層の厚さを痛感した。日本代表として我ながら頑張ったと思う。だからこそ、乾杯だ!
編集部より:この記事は堀義人氏のブログ「起業家の冒言/風景」2015年11月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「起業家の冒言/風景」をご覧ください。