「ポスコのパクリ」は韓国の国民性か?それとも…

北村 隆司

新日鉄住金が、韓国のポスコを技術盗用の疑いで訴訟していた事件で、「ポスコが300億円の和解金を支払うことで合意した」と言うニュースが大きく報道されたが、日頃から韓国に特別の関心を持つ産経新聞(電子版)は、「高くついたパクリと裏切りの代償 韓国・ポスコが創業以来の危機・新日鉄住金に高額和解金」と言うちょっと品の悪い見出しで、この結果を喜んでいたのが印象的だった。

「パクリ」と言えば、佐野研二郎氏の東京オリンピックエンブレムがベルギーのデザイナーから盗作だと訴えられた事件の記憶が新しいが、このエンブレムより上の二つの写真の方が100倍も似ている様に思えるのだが、如何なものだろうか?

と言うのは、左上はポスコ社のロゴの写真で、右上はニューヨーク世界博覧会のテーマシンボルとしてUSステイールが建設し、博覧会閉会後NY市に寄贈した「The Unisphere」の写真だからである。

ポスコが博覧会閉会直後に創立された事や、ポスコとUSステイールが同じ鉄鋼会社と言う類似性もあり、これがポスコの「パクリ」の始まりでは?と言う意地悪な見方も成り立ちそうだが、企業シンボルのロゴマークを他社から「パクル」事はさすが考え難いが、これが今の時代であればThe Unisphereをデザインしたムンク氏から盗作訴訟を受けたに違いない。

本題に戻って、ポスコと日本の鉄鋼産業との関係をおさらいしておくと、ポスコは対日請求権資金から資本金を調達し、日本の三大鉄鋼メーカー(当時)から技術の供給を受けて1968年4月に国営企業「浦項総合製鉄株式会社」として発足した企業である。

発足後暫くは日本から最新技術の提供を受けて来たポスコだが、その急成長ぶりにブーメラン現象の脅威を感じた日本の鉄鋼業界からの技術供給が中止され、日本より技術水準の劣る欧州に技術導入先を転換せざるを得なかった事が、電磁鋼板は元より自動車用薄板など付加価値の高い鉄鋼製造技術で遅れを取った大きな原因であった。

その事と「パレパレ(急げ急げ)文化」のお国柄が重なって「パクリ」に走った事は容易に想像できる。

当時の鉄鋼業界は文字通り日夜を徹して技術開発にしのぎを削っていたが、中でも八幡製鉄(当時)が1951年に米国アームコ社から技術導入した熱延珪素鋼板(電磁鋼板)の開発は超極秘扱いで、八幡の製造現場が物々しい雰囲気に包まれていた事を鮮明に覚えている。

ポスコに限らす「追いつけ、追い越せ」の圧力が行きすぎると、禁手に手を出したくなるのは日本も例外ではなかった。

1980年代に入って重厚長大産業で世界の頂点に立った日本は、他方では産業構造のソフト化やサービス化の波が押し寄せ、この分野で益々米国に水を開けられた事に焦燥感を強めていた。

一方米国では、日本に製造業の覇権を奪われた事に対する危機感が溢れ、当時のレーガン政権は規制緩和政策を継続しながらコンピューター、半導体などの先端技術分野での米国の圧倒的地位を死守するという決意を固めていた。

日本の焦燥感と先端技術分野のリーダーの地位を守りぬくと言う米国の不退転の決意の激突は、1982年6月23日の早朝「日立、三菱の社員 産業スパイで逮捕」という所謂「IBM産業スパイ(パクリ)」ニュースで日本の産業界を震駭させた事件で爆発する事になった。

この事件でもはっきりする様に「パクリ」は韓国や中国の専売特許ではなく、激化する競争に遅れた企業が起こし勝ちな万国共通の忌まわしい現象で、現在でも減少するどころか益々高度化した形で欧米諸国でも頻発している。

ここで馬鹿に出来ない事は、必ずしも個々の事実・データに基づいた合理的なものではなくとも「パクリ系国家」と言うレッテルを貼られた国が実在し、一端このレッテルを貼られた国が「パクリ事件」を起こすと「やっぱり」と言われ、日頃信用の高い国が起こしたパクリは「まさか」と驚きを持って迎えられる現実である。

残念ながら韓国は「やっぱり組」に分類されている。

例えば、米国の世論調査で「ダイナミックで行動力はあるが、短気で押しが強く、感情的」だと思われている韓国人が「パクリ事件」を起こすと「やっぱり」と思われ、「不可解で不気味なところが多く、優柔不断だが、冷静で正直」と言う評判の日本人が「パクル」と「まさか」と思われる場合が多い。

韓国がこれだけ経済的な成功を遂げながら「パクリ=韓国」と誤解される原因は、金になることならなりふり構わず何でもしようという「成金的な国民性」が必要以上に韓国の信頼を傷つけているからで、この印象を変えない限り、何か問題が発生する度に「やっぱり」と言うレッテルがついて廻る様な気がしてならない。

実は、日本も「成金国家」「物真似国家」と言われた時代が永かったが、日本の絶え間ない改善努力知られた結果、軽蔑が尊敬に変った経過がある。それに比べ、韓国は日本の成功や失敗に学ばす、同じ事を日本から「略30年遅れ」で繰り返す為に、韓国の信用は一向に向上しないままである。

とは言っても、新日鉄・住金や東芝が韓国の大企業に「企業秘密をパクラレた事件」で、秘密を漏洩したのが「金目当ての日本人元社員」であった事は、日本の世相や価値観が時代と共に確実に変化している事を示している。

これでも判る通り、「ポスコのパクリ事件」は韓国の恥部が吹き出ただけでなく、日本の良き国民性と国際信用を維持する難しさを教えて呉れた事件でもあった。

北村 隆司