ホテルのサービス向上と「勝てるホスピタリティ」

尾藤 克之

挨拶をする橋本久美子氏(橋本龍太郎元首相夫人)、左は長島忠美衆議院議員。於:ほてる木の芽坂

近年、「ホスピタリティ」を重視する企業が増えています。ホスピタリティとは「思いやり」「心からのおもてなし」という意味です。サービス業、流通業などお客様と接する機会が多い業種はもちろんのこと、多くの企業がサービス向上の施策としてホスピタリティに注目しています。

今回は、ホテル経営にホスピタリティ教育を導入している「ほてる木の芽坂(新潟県六日町)」、代表取締役女将・発地満子氏に話を伺いました。

私たちがホスピタリティ教育をはじめた理由

—ホスピタリティ教育を導入した経緯と活動内容を教えてください。

発地満子氏(以下、発地) 新潟県は観光業が盛んです。国立公園が多く、中越地方と上越地方の山間ではスキーが盛んです。当ホテルがある南魚沼市は新潟県の中越地区にあり米どころとして有名です。コシヒカリの収穫量は日本一で「魚沼産コシヒカリ」として定着しています。また、NHK大河ドラマ「天地人」の舞台であることを知っている方も多いかと思います。新潟県は「雪を生かした観光」を目指しており付加価値の高いサービスが求められていました。

これは、先代社長(故発地信博氏)が地元観光協会の理事長をしていたことも影響しているのですが、ホテルのサービスレベル向上のためにはホスピタリティ教育が重要であると以前から考えておりました。その一環として、東京の障害者支援団体であるアスカ王国(橋本久美子会長・橋本龍太郎元首相夫人)の活動を2000年から受け入れています。

毎回、障害者と健常者が300名近く参加しますが、既に当ホテルでは9回ほど開催しており、地元を巻き込んだ活発な活動になっています。行政や市議会、学校関係者や障害者施設、多くのメディアが注目します。社員を含めた参加者の啓蒙はもちろんのこと、啓蒙以外の副次的効果も期待できます。

障害者支援をおこなう際の留意点

—これからのホテルの差別化ポイントを教えてください。

発地 県内に限らず、全国的にホテル競争は熾烈なものになっています。当ホテルでは今後の差別化ポイントを「ホスピタリティの充実」と考えています。ホテルは宿泊者にとってリラックスできる環境が望ましいですから、内装や清潔感、料理などのハード面は重要です。しかし、そのベースにあるものは「ホスピタリティ」でなければいけません。今後も、障害者支援などを通じながらホスピタリティ向上の活動に取り組んでいきたいと思います。

—活動をルーティン化していく際のポイントを教えてください。

発地 まず活動をすることで地元との関係性が強化されることに気がつくはずです。当ホテルでも、定期的に開催する大衆演劇などでは地元福祉施設や特別支援学校を招待するなど、地元との関係性がつくりやすくなりました。いまでは、他の障害者団体の受け入れも可能となりました。

一方、バスの乗車移動などに時間がかかるため大雪の年などは移動におけるフォローが難しいことがありました。また、大人数の場合には料理の量などの調整が難しくなります。これらはオペレーションの問題なので、経験をつむなかで解決していきましたが、従業員の入れ替わりなどがあるとゼロベースで対応しなくてはいけません。今後は、培った運営ノウハウを、上手く蓄積して共有できる仕組みを構築したいと考えています。

—ありがとうございました。

1972年に米国ペンシルバニア州裁判所は「障害の如何を問わず、すべての子供はその能力に応じて教育を受ける権利を有する」(PARC判決)と宣言しています。これは、差別的な教育に対する是正を求めたものであり、教育のダンピング(教育の放棄)を招く危険性があることへの警告です。

内閣府の平成26年度障害者雇用状況によれば日本における障害者数は、身体障害者366.3万人(人口千人当たり29人)、知的障害者54.7万人(同4人)、精神障害者320.1万人(同25人)であり、国民の6%が何らかの障害を有するとしています。障害者政策は私たちにとって喫緊の課題でもあるのです。

尾藤克之
コラムニスト