「液晶の次も液晶」ではなかった?

岡本 裕明

「液晶の次も液晶」とは経営者語録集になりそうな響きですが、記憶が正しければシャープの経営が苦境に陥り始めたころ、液晶への一本足打法にこだわる同社が液晶事業への経営資源の継続投下姿勢を経営トップが述べたものだったと理解しています。

当時、世論では有機ELが液晶の次と騒がれ、事実、ソニーなどが小型の有機ELを開発して販売したものの技術が十分成熟せず、商用展開も目途が立たず、日本勢は半ば葬り去っていた技術であります。日経ですら、2013年2月には液晶技術の更なる深化で「液晶の次も液晶」という記事が出ています。当時、有機ELを本気で頑張っていたのは韓国のLGで同社だけが大型のテレビまで商用化にこぎつけています。先日、日本の大手家電販売店に行った際、湾曲した大型画面の有機ELの同社製テレビが鎮座しておりました。

確かに有機ELはまだまだ開発段階でいくつかの弱点があるとされています。寿命が短い(現在は数年とされます)はその一つのようで、事実、大型家電販売店で販売していた有機ELのテレビは画像が美しいと称されるのにスイッチがついていませんでした。画質が痛むから惜しんだのか、良すぎて液晶と差が出過ぎてしまうのか勝手な推測をしてしまいそうです。

ところが世の中にはある風が吹くと突然その方向が変わることがあります。

今週、アップル社がiPhoneに有機ELを搭載したスマホを開発すると発表したことで多分、この業界では大騒ぎになっていることかと思います。アップル社の意図はスマホのデザインにカーブを付けるなどの斬新さを打ち出せることがあったからだと思います。また、生産数は十分に確保できないため、韓国のLGも追加投資で大型工場を建設することを今週急きょ決めました。アップルの戦略はその生産量が少ない故にライバルのサムスンをはじめとするスマホメーカーに有機ELの供給が実質出来ない状態にしてアップル社がデザインの独占をすることではないかと考えています。

これに慌てているのが日本側であります。ジャパンディスプレーは研究は継続していたようですので2018年頃を目途に商用化とアップル社への販売を目論むと報道されています。「液晶の次も液晶」のシャープも対応を迫られているようです。

この一連の流れをみていると市場を決めるのは最終財を販売する企業であり、その企業がデファクトスタンダードを形成すれば圧倒的強みを利用してゲームチェンジャーになるということでしょう。仮に日本側が数年のうちに有機ELの商用化と妥当な価格での販売が実現できるようになったとすればこの5年ぐらいの足踏みは何だったのか、ということになります。

言い換えれば研究する側からすれば液晶の深堀に市場はある、と判断し、究極の選択をしたもののアップル社というとてつもなく大きな影響を与える会社のたった一つの決定が世の動きをひっくり返した、ともいえます。

これをもう少し大所高所的に見ればジャパンスタンダード、要はガラパゴスはリスクと背中合わせとも言えましょう。個人的には日本の技術の突き詰めるスタンスは非常に重要で今後も継続せねばならないと信じておりますが、マーケティングが弱いことを如実に表しているような気がします。技術者に何を開発してもらわねばならないのか、その目標が不明瞭で各社が五月雨式に次々と新しい技術を発表し、結果として多くの優れた技術がお蔵入りしている点ではないでしょうか?

先日、日経ビジネスに長く売れる商品の特集があったのですが、多くの企業は年間に何百という商品を世に送り出し、その大半は短命で終わっているという事実に接した時、もう少し効率的な開発方法はないものかと改めて考えさせられました。まるでやみくもに売りまくり、そのうち何%でも当たればOK,ぐらいの感覚にすら感じてしまいます。

日本の研究開発とマーケティングのあり方について一考を投じた有機ELの話題でありました。

では、今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月28日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。