「パリ同時テロ」の首謀者アブデルハミド・アバウド容疑者が9月、難民に紛れてギリシャから欧州入りしたという。首謀者を知る証人が語った内容だけに信頼性は高い情報だ。このニュースは「パリ同時テロ」後、治安関係者が常に懸念してきたものだ。
多くの難民がトルコからギリシャ経由、バルカン・ルートからオーストリア、ドイツ入りしたが、その中にイスラム過激派が潜入していても不思議ではなかった。ギリシャでは難民の身元確認は難しく、混乱状況が続いていたからだ。もちろん、偽造旅券も出回っていた。身元確認が不十分にもかかわらず、多くの難民・移民が欧州入りした事情があったからだ。
このコラム欄でも指摘したが、ドイツのメルケル首相が8月末、「ダブリン条約を暫定的に停止し、紛争で犠牲となったシリア難民を受け入れる」と表明したことが、呼び水となって難民が欧州に殺到した。その直後、難民がオーストリア経由でバイエル州に殺到し、バイエル州も対応に苦慮、「キリスト教社会同盟」(CSU)のホルスト・ゼ―ホーファー党首はメルケル首相に難民受け入れ表明の撤回を要求したほどだ。メルケル首相の「キリスト教民主同盟」(CDU)内でも首相の難民受け入れに批判の声が聞かれる。ドイツ国民もメルケル首相の難民対策に批判的になってきている。首相就任10年を迎えたメルケル首相の支持率がここにきて低下してきた最大の主因はやはりその難民政策にあることは疑いないだろう。
メルケル首相は「パリ同時テロ」後も、難民受入れの規制に繋がる最上限(Obergrenze)という言葉を避け、「われわれは出来る」と就任直後のオバマ米大統領のキャッチフレーズを思い出させるような言葉を繰り返している。
次は、2001年9月11日の米国内多発テロ事件を思い出してほしい。米国内多発テロ事件のテロリストの多くがテロ前にドイツ国内に潜伏して、訓練を受けてきたことが明らかになった。すなわち、国際テロ活動でドイツがイスラム過激派テログループの拠点となっていたのだ。
米国家安全保障局(NSA)の元メンバー、Thomas Drake氏は、「9・11テロ後、ドイツはNSAの海外盗聴活動最重要拠点となった」と証言し、ドイツ国内に約150カ所の盗聴拠点があることを明らかにしている。同氏によれば、NSAの監視体制はイスラム過激派テロリストを潜伏させ、テロリストに訓練と通信を支援したドイツに対する制裁という意味合いがあるというのだ。
NSAがメルケル首相の携帯電話を盗聴していたことが発覚して以来、米独関係は一時冷たい関係となり、危機的な状況に突入したが、米国はその後もドイツ内での情報収集を止めていない。
ドイツが「パリ同時テロ」と米国内多発テロ事件の2件のテロ事件に直接、ないしは間接的に関わっていたことが実証された。イスラム過激派テログループはドイツの経済的、政治的条件を悪用し、ドイツ発の国際テロを繰り返しているわけだ。
難民の欧州殺到、米国内多発テロリストのドイツ潜伏問題でその責任を追及されたならば、ドイツ政府も国民も戸惑うかもしれない。しかし、ドイツは欧州連合(EU)の盟主であり、経済大国だ。責任を背負えるだけの国力はある。ナチス・ドイツの過去ゆえにこれまで回避してきた政治的指導力を発揮し、難民問題とテロ対策の解決に積極的に立ち向かうべき時ではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年11月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。