川上量生さん著「鈴木さんにも分かるネットの未来」。
コンテンツとプラットフォーム、オープンとクローズド、グローバルプラットフォームと国家、機械知性と集合知、リアルとネット。目次にそそられ読みました。
考えるためのテキストとして、優良教材に登録します。
グッときたポイントを20点ピックアップします。
(ぼくが短縮した部分もあるので、著者の意図とズレる点もあるかもしれませんが、できるだけ忠実に。)
「→」はぼくの感想です。
1 ネット住民の層が極めて分厚く他国を凌駕している背景は、インフラ整備が進んでいることと、豊かなニートが多いこと。
→基盤はインフラと人材。かつてぼくが電気通信基盤充実臨時措置法を起草したときも、通信インフラと人材を基盤と記述しました。
2 ボカロ音楽などUGC発のコンテンツがこれほど盛り上がっているのは日本だけ。
→作詞、作曲、絵画、アニメ、歌唱、演奏、ダンスなどみんなが得意技で参加して育てていく、「みんな力」があります。
3 ネット住民は現実社会への劣等感だけでなく、進化の先端にいるという優越感も持っている。
→劣等感を抱くリア充がネットでしでかすと、情報強者の優越感で炎上を引き起こすと。
4 PCやネットの文化の担い手は、これが人類史上の革命であり、その新世界が生む知識や環境を平等・無償で享受できるべきという理想を持つ人が多い。
→技術が急激に進化し、ビジネスも制度も固まらないのに、イデオロギーが持ち込まれるとハレーションが起きますよね。
5 ソーシャルゲームはサーバにデータが保存され、違法コピーが不可能なので高い価格設定でも顧客はお金を払う。コンテンツの価格を下げるのは違法コピーの存在。
→コンテンツはパッケージでもDLでもなくサーバ型になれば違法コンテンツ問題は解決すると川上さんは知財本部でも繰り返しおっしゃってました。ゲームはサーバ型へと移行していますが、他のコンテンツはなかなかそうせずに苦しんでます。
6 世界の音楽市場が縮小する中、日本だけが違法コピーの少ない着うたや着うたフルのおかげで伸びた。
→そしてこれは、日本人がネットのコンテンツにカネを払わないという風説を打ち砕いた証明でもありました。
7「コンテンツはつくらないと宣言するプラットフォームがフェアであるとも責任ある態度だとも思いません。」
→日本では通信会社が長らくそういう態度でした。IT企業による放送局買収騒ぎもあり、通信が放送から距離を取る姿勢を示しすぎた。
すると今度はアメリカのIT企業がおカネを持ってやってきました。日本でもコンテンツを作ると宣言するNetflixの行方が気になります。
8 任天堂やSCEのように自らコンテンツを作り、コンテンツから利益をあげる家庭用ゲーム機のようなPFが、コンテンツが儲かる仕組みが維持されて、クリエイターにとって幸せな環境。
→ PFを作る力は日本にもある、ということ。
9 高性能で廉価な専用ハードを提供し、PF囲い込みによるソフトの販売で利益を上げる任天堂モデル。これを模倣して成功したのがiモード。
→アップルやグーグルのスマホビジネスモデルもこの線上にあります。
10 人気のあるコンテンツは独自PFを作り、定額サービスは人気コンテンツを集めることが難しくなる。サービス側は自らコンテンツを作る方向に進む。
→ドワンゴと角川の融合によりPFがコンテンツを作る。それを目指すということですかね?
11 ネットはオープンな公共の場からクローズドなプライベートな場へユーザの生活の中心がシフトしていくのは当然。
→伽藍からバザールへ、の時期が過ぎ、バザールから居間へ。
12 コンピュータはオープンがクローズドに勝ってきた歴史だが、IT業界は逆流している。FacebookもiPhoneもサービス囲い込みのクローズ。
→どれか一つのクローズドサービスが力を持ちすぎること、クローズド間の行き来ができなくなること、のないように願いたい。
13 PC誕生以来、アップルはオープン戦略と戦いつづけてきた。対IBM、対MS、決定的な戦いで常に敗北しつづけてきた。
→古いアップル使いは、それに泣かされつづけてきました。弱い頃の阪神のファンだったので耐性はありましたがぼくは。
14 日本だけ規制が緩い産業があれば国際競争力の源泉になる可能性がある。
→そのとおり。ぼくが規制緩和一辺倒なのも国際競争力の観点が主因です。
15 日本は宗教的価値観が社会に与える影響が小さく、民主的な政治体制をもつため、世界で最も自由な創作活動ができる。タブーの少ない創作活動を競争力を生む。
→同意。クールジャパンの源はユルさにあります。
16 マンガやアニメにも表現の規制を導入する動きがある。ネット時代には規制の少なさで国際競争を勝ち抜いていくという視点が必要。
→同意。表現規制強化には断固反対。
17 ネット上に国境がない状態で、国家が法律などで規制をしようとすると、国内の企業だけが守らされ、海外の企業は守らなくてもかまわないという、実質的には海外企業の保護政策みたいなものになってしまう。
→そして川上さんも政府の会議で主張していた「業界自主ルール」も厄介ですね。
法律の規制は強すぎるから業界ルールで、というのを真に受けて自主規制を敷いても、海外のPFは従わず、国内企業だけバカをみるという例がコンテンツの世界で発生しています。この問題をどう解くか。政府でも答えが出ていません。
18 テレビ番組はネット端末の一機種になり、端末も融合する。そしてテレビ番組の伝送路が放送波からネットに置き換わる。
→放送のIP化を進めるIPDC。ぼくらが始めて6年になります。いよいよ本格化かな。
19 セガサターンがCPUを7個積んでいたが、後継機ドリームキャストはSH-4が1個だけだった。
→集合知は必ずしも頭がよくない例としてこれを挙げるのが川上さんらしい。ぼくはドリキャスの開発に少し関わったんですが、楽しいプロジェクトでした。ビジネスとしては惨敗でしたが。
20 ニコ動はコメントを投稿することで誰もがコンテンツのつくり手側にも参加する。
→コンテンツをエンタメ商品だけでなく、ブログやメールなど個人コンテンツも含め、政策の対象にしようとぼくが主張して10年以上になりますが、その両者を組み合わせて一つのコンテンツ空間、コンテンツ環境を作り上げたニコ動は世界的にも重要な意味を持つモデルだと考えます。
云い遅れました。いい本です。
それを岩波から出すのも川上さんらしい。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年12月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。