堀潤は“見取り図”を書いて特ダネを見つける

アゴラ編集部

言論プラットフォーム「アゴラ」と世界的筆記具ブランド「モンブラン」とのコラボレーションでお送りするブランドジャーナル「NO WRITING NO LIFE」。第7弾は、NPO法人「8bit News」代表で、ジャーナリストの堀潤さんです。NHK時代はアナウンサーとして活躍。報道局の記者たちとは異なる独自の目線からニュース番組のレポートを敢行しました。

2013年に理想の市民メディアを追求して独立し、現在は朝のニュース番組「モーニングCROSS」(TOKYO MX)などレギュラー番組の傍ら、同法人で撮影・編集技術を身につける市民を育てる活動をしています。新しいメディア、ジャーナリズムのあり方を模索する堀さんの「書く」ことへの思いに迫りました。(取材・構成はアゴラ編集部)
(※この企画はモンブランの提供でお送りするスポンサード連載です。)

プロフィール
堀潤(ほり・じゅん)
ジャーナリスト。NPO法人「8bitNews」代表。1977年生まれ。2001年にNHK入局。岡山放送局を経て「ニュースウオッチ9」のリポーターとして主に事件・事故・災害現場の取材、「Bizスポ」のキャスターを担当した。13年からフリー。現在は「モーニングCROSS」(TOKYO MX)のMCとして活躍中。著書に「僕らのニュースルーム革命」(幻冬舎)、「僕がメディアで伝えたい事」(講談社)等。

書くことで救われた少年時代


——アナウンサーの出身ですが、記者出身の方に負けない執筆力にも定評があります。社会人になる前から文章を書くことが好きだったのですか
書くことで救われた子供時代でした。商社勤めの父が何度も転勤するのに伴い、自分も関西と関東で転校生生活。関西から関東に行くと、「なんでやねん」と言うと揶揄され、関東から関西に行くと「○○でさあ」と言った瞬間に「キモい」と言われる(笑)でも絵を書くのが得意だったので、同級生の似顔絵や教室の出来事を漫画にする。そこに方言を超えた非言語コミュニケーションが生まれて心をつかみ自分の足場を築けました。

その後、文学少年になってカフカを愛読し、父の持っていた画集を見てダリなどシュールレアリズムを好きになるという感じで(笑)世の中には不条理の世界があるんだという、どこかあきらめているところもあり、学生時代はバンド、アルバイト、パチンコのループ生活でしたよ。

——そんな学生生活だったとは驚きです。そこからマスコミやジャーナリズムへの関心をもったきっかけは
塾講師のバイトをしていたのですが、進学塾ではなく、不登校やグレちゃった子が通う地域の塾でした。学校や進路のことで悩む子供たちに向き合う彼らから見て、学生の僕でも「大人」であり「社会の窓口」。90年代後半当時の暗い世相への不安、社会への不信感を変えてあげたいと思いました。その頃、マスコミへの関心もあったので本物の事件現場に行ってコートを来て報道陣に紛れて記者の真似事をしていたんですが、子ども達の前で「あの現場に行ってみると、週刊誌に書いてあったことと違ったんだよ」みたいな話をすると、「本当に?」とすごく興味をもったり、感想を話したりするのが無類の喜びでした。

現場の要点を事前に整理する


——「書く」と言えば、NHK入社後、現場取材でメモ取りをされていたと思いますが、新人の頃の失敗談はありますか
初任地の岡山時代は現場でメモし忘れたことを補足して原稿を書くと、自分の考えになってしまって取材先から怒られてしまい、現場で書き取る大事さを痛感しました。そこから鬼のように書いていこうと技術を磨いていきました。しかし、なんでもかんでも拾ってしまうのはよくないです。

——ポイントを外さないコツはあるのですか
ロケ車等で移動する最中や空き時間に、人物相関図や現場の見取り図を事前に作ることを心がけました。事件の相関図なら、被害者のAさん、加害者のBさんがいる。そして近所のCさん、さらにDさん、Eさんがいるなら話を聞いていく。事件や災害の全体像をわかるようにしてから、現場の要点や自分の聞きたいことを整理した上で書くようになりました。事前に整理をしていないと、現場で点の情報を拾いがちになるし、インタビューも冗漫になる。話を聴きながら、思い出したり、分析したりするのは難しいですよね。

見取り図のことで思い出すのは「ニュースウオッチ9」のリポーター時代、岐阜で女子中学生が殺害された事件の取材です。夕方に一報が入って現場に向かったのですが、現場到着が午後8時40分。本番までの時間の9割が移動。でもその間に先輩から「とにかくシミュレーションだ」と言われ、何パターンか想定しながら誰に話を聞くべきか、どんな証言があるのか集中して整理することを教わりました。到着次第、地元の方に2人くらい話を聴き、現場の見取り図をバッとマジックでこんな感じで描いていきます。

事前の整理が現場取材に役立つ


——もしかして、当時の見取り図を再現できるんですか
国道の数字は正確じゃないかもしれないですが、覚えているものですね=下記画像=。一報では、人通りのない住宅街にある廃墟のパチンコ屋跡地で現場ということでしたが、近くに幹線道路があり、現場は暗いけど周辺はそうでもなく、人通りも少なくない。その時、通常ならカメラを三脚に固定するところを、あえて外すというNHKの事件報道では画期的な試みをしたのですが、そうした現場のリアルを伝えられるのも事前の見取り図があったからです。

事前に整理をし、俯瞰することがいろんな事件取材や問題解決に役立って行きました。群馬県内で起きた老人保健施設の火災の取材でのこと。入居者のお年寄り10人が死亡する痛ましい火災で、違法建築で消防施設が整わなかったことが取りざたされ、他のマスコミの取材もその話に殺到していたのですが、人物相関図を書いていくと、入居者の情報が薄いことに気づくわけです。

そこに焦点を当てて聞き込んでいくと、ある民家の男性から、「あの施設には東京23区から身寄りのないお年寄りが定期的に運ばれてきていた」という話が入ってきました。地元の人でもない、素性のわからない人が違法な施設に送り込まれることに、その男性は反対運動をしていたというのです。今でこそ、都市部で施設が不足して、入居できないお年寄りがたくさんいる話が問題になっていますが、その先駆けになるような実態を特ダネにすることができました。ノートに図で書いて実態を俯瞰したことで特ダネが浮かんできます。当局が言っていないことも分かってくる。それがニュースであり、現場主義ではないでしょうか。

——「8bit News」では、学生インターンに取材のやり方を指導されています。最近の学生は長い文章を書くのが苦手という指摘もありますが、いかがですか
最近は確かに書く機会が減っていますね。LINEのスタンプは言葉の壁を超えて分かり合えるし、コミュニケーションのツールが発達して文字を書かなくてもよくなっていますからね。でも書く技術があったほうがいいと思うのは情報を改めて俯瞰したり、点と点を結びつけて次のアイデアを見つけ出す。もしくは解析や分析する。額面通りに受け取らずに考えてみる。全く違う世界が広がっていきます。

これはNHK時代に叩き込まれたノウハウでもあるのですが、いまウチでは「ペタ」と言って付箋ごとに撮ってきたシーンの内容を書いて整理し、全体の構成を考えてもらっています=写真=

みんなで眺めながら「やっぱりインタビューから入ったほうがいいよね」「問題解決の提案から先に入ってほうがいいかな」とかいうようにやります。こうすると、情報を俯瞰して全体を観る眼差しが養われます。価値観の多様化が進んで人々の関心がピンポイントに分かれていく中で、周りの人間関係や社会がどうなっていくのか、書いてみることで見えてくるもの。書くことで新しいものを作れるし、自分の力で世の中を変え、自由になれることを実感できる機会を持てると思います。

取材を締めくくるにあたり、堀さんに、世界的プロダクトデザイナーのマーク・ニューソン氏がデザインした「モンブランM」の万年筆を使ってもらい、「あなたにとって書くこととは何か?」を綴ってもらいました。(各写真をクリックすると「モンブランM」の公式ページをご覧になれます)