労働組合は労働者の敵か、味方か

松本 孝行

松下幸之助さんといえば誰もが知る有名経営者であり、「経営の神様」とまで言われた人です。その松下幸之助さんが認めた坪内寿夫さんという方がいらっしゃるのをご存知でしょうか。様々な赤字・破綻寸前の会社を復活させたすごい経営者です(坪内寿夫)。

会社再建―太陽を、つかむ男 という小説は坪内寿夫さんが佐世保重工業の社長に就任し、奮闘するストーリーを描いたものですが、ここで労働組合は抵抗勢力であり、敵であり、足を引っ張る存在として描かれています。この本を読んでいるとストーリーは面白いのですが、いったい労働組合は労働者にとっての敵なのか、味方なのかわからなくなり混乱してしまいました。


小説の中に出てくる労働組合に関する幾つかのエピソードをかいつまんでお話すると、下記のようなものがあります。

  • 坪内氏は社長就任前に全社員に愛媛で有名なお菓子「母恵夢」を1箱ずつ配る手配をしていた。しかし労働組合会長が「事前協議がなかった」ということで受け取りを拒否。ほとんどを冷蔵庫で保管することに。
  • 破綻寸前にも関わらず給料15%カット、週休二日制の廃止、賞与カットという会社からの要求を断固拒否。
  • 労働組合会長は会社に借金があったが、退職金と坪内氏がポケットマネーを出して返済した
  • 労働組合会長は佐世保重工業をやめて衆議院に立候補、その際に敵として攻撃していた坪内寿夫氏に資金援助を求める(坪内氏は数百万円援助した)。

というようになかなか面白いエピソードがたくさん入っています。労働組合会長の国竹さんという方はいろいろな評価があるかと思いますが、こちらの小説では徹底して会社再建を阻む敵・抵抗勢力として描かれています。

この小説を読んでいるといったい労働組合というのはどこを向いているのか?本当に労働者のためになるのか?と思わざるを得ません。小説の中にはストを起こして街中にビラを配ったことで、管理職の子供がいじめられたり、役員が道端で社員に絡まれるというようなシーンも書かれています。

今ではこういった過激な行為はさすがにないと信じたいですが、過去の流れも関係しているのか近年は加入率も組合員数も減少を続けています。2014年の12月に厚生労働省が発表した数値によると、労働組合の加入率17.5%、組合員数984万9000人となっています(参照)。

私は全く労働組合が労働者のためにならないとは思いませんが、上記の佐世保重工業の話を聞いているとまるで一部の人たちが労働組合を私物化したり、労働者のためにならないようなことをしたり、会社を倒産寸前に追い込んだりしているように見えてしまいます。本当に労働組合があって良かったのか?疑問に思えてくるのです。

現在は小説の時代とはかなり異なっています。今は正社員だけではなく非正規社員として働く人たちも多くなっており、昔のように雇用を守る・待遇を守るということも一筋縄では行きません。業績悪化した企業は正社員雇用を守るために非正規社員の雇用を切り捨てるというようなことが現実に起きています。

また私だけかもしれませんが、労働組合があったことによって労働者にとって利益になった、という話をほとんど聞きません。どちらかと言うと「非正規で労働組合に入ろうとしたら断られた」や「労働組合の幹部になっている人が昇進している」というような、あまり労働者のためにならないエピソードばかり耳にするのは私だけでしょうか。

さらに言えばメーデーでは労働問題とは関係のない、安保法制反対運動なども起こりました。反安倍であることは思想信条の自由ですから気にしませんが、それを労働者の日であるメーデーで主張するのは労働組合として正しいのか、疑問です。

今、働き方が多様になっている時代です。非正規社員・正社員・中小企業の労働者など、すべての労働者にとって労働組合は本当に味方なのでしょうか。

松本孝行
@outroad