産経はこんな記事をもう書くな --- 中村 仁

産経新聞のソウル支局長が、朴韓国大統領の男女関係のうわさを素材にしたサイト記事を書き、それをめぐり、日韓関係の大問題が発生しましたね。結局、ソウル中央地裁が記者に対する無罪判決を言い渡しました。こじれきった日韓関係の改善につながる、韓国に3権分立が成立していない、言論の自由に配慮した判決とかの記事が、日本のメディアであふれかえりました。

指摘されている論点、視点はいずれももっともで、異議を唱える気持ちはありません。ただし、どうしても違和感をぬぐえなかったのは、1年以上も続いた報道を読んでいて、なんでこんな次元の低い話が「言論の自由、報道の自由」の問題に飛び火してしまうのか、という違和感でした。大騒ぎした韓国側の対応ばかりでなく、こんな記事を載せた産経側にも、非は双方にあるのです。


▲無罪判決直後に号外を発行した産経。“噂話”を掲載した非は無かったのか(アゴラ編集部で修正)

イエローペーパー並みの産経


結論からいうと、週刊誌か夕刊紙なら好みそうなうわさ話を韓国紙に追随して書き、日韓関係に騒ぎを引き起こしたことの愚かさです。ソウル支局長が書いたコラム(昨年7月)はいかにも思わせぶりです。「旅客船の沈没事故当日、大統領はあるところで、秘線とともにいた」、「秘線とは秘密に接触する人物を示す」、「証券筋によると、うわさは大統領の男性関係に関するものだ」、などなど。イエローペーパーが多い「夕刊〇〇」の書き方ですね。これはやってはいけません。

産経は韓国政府と犬猿の仲で、何をどう書けばどんなことになるか、現地の支局長なら熟知していそうなものです。大統領の悪口にはちょうどいい話だし、ネットのサイト記事だから、地元紙を引用する形なら問題はなかろうと、気軽に考えたのかもしれません。安易でしたね。

朝日も気が腰が引けたか


新聞報道をみると、当事者の産経新聞の社説は「言論の自由を守る妥当な判決だ。裁かれたのは、韓国である」と、勝利宣言をしました。朝日は言論の自由を保障した法に照らし、当然の判決だ」と、珍しく両紙は歩調をそろえています。朝日なら報道の的確性などを普段は重要視するのに、今回はそれがないのです。朝日は記事の捏造・誤報事件で懲りているのかもしれません。

一方、読売新聞は社説で「風評を安易に記事にした点は批判を免れない」と書きました。社説の大半は、検察の行きすぎ、朴政権の政治的意図、筋の通らない外交上の取引などへの批判にあてられています。言論の自由、報道の自由への言及は見当たりません。恐らくそれに値する記事ではないと判断したのでしょうか。そういう判断があるなら、もう一歩踏み込んで、低次元のうわさ話で言論の自由を持ち出すことのばかばかしさを指摘してもらいたかったですね。

たとえば、韓国政権の外国安全保障上の重要機密を報道し、それに対する制裁がなされ、メディア側が言論の自由、報道の自由をめぐり、裁判で争うというのなら意義があります。日本新聞協会の声明文は「自由な取材・報道活道が脅かされることないよう注視する」としています。文面は常識的で、産経側の取材姿勢における問題点に言及していません。いい加減な報道がいかに国益を損なうことになるか、という問題意識があってしかるべきですね。

自由には責任と節度が伴う


「言論の自由、報道の自由には、正確な取材に基づくという責任、節度が伴う」と、だれかはっきりいって欲しかったですね。産経さんよ、二度とこんな記事を書くな、こんな記事で報道の自由なん持ち出すな、が結論です。

中村 仁
読売新聞で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。その後、中央公論新社、読売新聞大阪本社社長を歴任した。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2015年12月19日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた中村氏に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。