シャープ、決断の時

岡本 裕明

シャープの株価が50年ぶりの安値となっています。日経の「冬を越せるのか?」は「年を越せるのか?」と読み替えたくなるほどでありますが、最悪のシナリオとなるとは思っていません。私になりにいろいろ考えてみました。

まず、シャープの経営、特に再建プランが思惑通りに進まないのはひとえに液晶部門のブレであります。想定通りにいかない、という会社側の説明は何度もありました。いや、今年に限らず、この数年、ずっと同じコメントが繰り返されていました。それゆえの液晶部門売却計画であります。

その液晶技術に群がるのは台湾の鴻海精密工業と日本の産業革新機構、及びその傘下のジャパンディスプレイの三社であります。他にもサムスン電子などの名前が上がりますが、これは宛て馬だと考えれば、案は絞られていると思います。

今回の銀行は後ろ向きの経営支援に感じております。官邸主導でいやいやながら追加融資に応じた主力二行はその融資が不良化しない最善策をとる方法しかありません。

では、誰がシャープの液晶部門に一番大枚をはたくかといえば鴻海であります。郭台銘会長はシャープにずっと恋をし続けてきました。一旦、ダメになったものの再び、そのチャンスが巡ってきていよいよ液晶と結婚できる可能性まで掴みました。相手のことを知り尽くした上での求婚です。ならば結婚指輪はより高価なものになりやすくなります。主力銀行が惚れているのはこの点でしょう。

一方の産業革新機構はシャープの液晶部門の価値を1000億円程度と考えています。その上、本体に出資するなら銀行が借金を棒引きせよとまで言い放ちました。これは当然、無理な話。そこで産業革新機構は今、資金を生み出すための持てる資産の切り売りをしようとされています。それでも鴻海が考えている価値を大幅に上回ることは出来ないでしょう。なぜならこちらも政府の息のかかった組織であるからです。

産業革新機構がシャープを抱き込もうとする理由はジャパンディスプレイのシェア、ひいては価値を守るためであります。シャープの技術を生かして成長させることとは主眼が違います。政治的であって経営的ではありません。

シャープの液晶を鴻海に売る場合と産業革新機構ないし、ジャパンディスプレイに売却する場合にメリット、デメリットがあります。鴻海の場合、最も高く売れる一方で技術の海外流出が起きるとされます。産業革新機構ならば場合によりシャープの再建そのものを面倒見られる、ジャパンディスプレイに合体させればシェアは世界一になる、とも言われます。が、独禁法以前にジャパンディスプレイとシャープの相性が違う気がします。つまり、組織上の合体効果が得られないように見受けられます。

私の考えは鴻海への最大金額での売却であります。産業革新機構のプロポーズをテコに鴻海の支度金を上乗させ、とにかく高く売却することで決着させ、シャープのその後の事業展開を一日も早く策定することです。これは報道されている流れに反していると思いますし、政治力がかかるのですから正論でことが運ぶわけではないでしょう。私は予想屋ではなく、あるべき姿を考えた上での意見です。

まず、シャープの技術、特にIGZOの技術ですが、そこまで凄いなら市場に左右されることなく、もっと売れるでしょう。既にアップルは一部を有機ELにするとしています。ならば、「技術者の言う凄い」と「市場の思う凄い」には違いあるように思えます。大前研一氏も同様のお考えのようです。

シャープは液晶を売却し、債務を軽減したうえで東芝の白物の一部を引き取り、そちらで勝負すべきかと思います。事実、シャープの高橋社長は液晶以外は安定した利益が出ている、と述べています。ならば、第二創業なのですからそれぐらいの心構えでよいでしょう。今の状況では「二兎追うものは一兎も得ず」でシャープも東芝も窮地に陥ってしまいます。官邸の関与とは安倍政権による経済再生が順調だという意味合いから「大型倒産させない」に限定されていると思います。ならば、この組み合わせが私にベストに思えます。

以前、ガラパゴスニッポンで技術だけが独り歩きして消費者が置いてきぼりになっていることは何度も指摘したと思います。日本で売れている4Kテレビ、あるいは将来の8Kテレビ、果たして世界制覇できるのでしょうか?世界でテレビ視聴はドンドン下がっています。それは見たい放送だけ見る、それもかつては録画して番組をみるでしたが今や、その中のエッセンスだけ見る、です。多くの人はネットで1-2分の画像を見て終わりかもしれません。羽生君や五郎丸君が話題になってもテレビにくぎ付けになるほど現代人はもはや暇ではないのです。

私のテレビ視聴は日本の一部の放送をインターネットの酷い画像を通じて見る以外ほぼゼロ。あとは現地のケーブルテレビに組み込まれている音楽番組をバックグラウンドで流すだけです。画像を見るのはスポーツバーで背景として放送している各種スポーツ番組かDVDで見たいドラマだけを買ってきて見ます。そこに画質へこだわる余裕はありません。今この瞬間を逃せば(忙しいから)あとで見るチャンスは巡ってこないからです。

もう一つ、郭台銘会長が大枚はたいて購入してくれる意味は彼ならその技術をうまく使って売り込むことが出来るということです。シャープの技術者にとってそれが世間で注目され、評価され、売れる方がよいに決まっています。台湾に技術を売り渡したというならまた何か違うものを作ればよいでしょう。

私は長く北米発のビジネスの展開のやり方を見てきました。世界のビジネスをリードし続けているアメリカという国はずっと売っては生み出す経営で成長してきました。技術はドンドン売却して更に上を目指すのです。

モノは考え方で技術者の素晴らしい努力で高く売却できてシャープを救うとしたらどうでしょう。日本の技術が一つの企業を救うことになるのです。シャープペンシルに電卓、液晶と変身してきました。次もまたあります。さぁ、高橋社長、あなたの決断の時ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ外から見る日本、見られる日本人 12月28日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。