■共産党の大衆化は奏功するか
年が明けた途端に「SEALDs」という単語そのものに古さを感じてしまうのは、それだけ彼らが昨年を象徴する団体であり、一種のブームだったからだろう。
しかしそのブームは、今年に入っても尾を引いている。最たるものが日本共産党の「大衆化」だ。
昨年九月の中央委員会総会で、志位委員長は「国民の声に応えるため、共産党も変わらなければならない。我々は新たな戦いに入る」と述べたという。勇ましい限りだ。天皇制反対や自衛隊解体を掲げている以上、政権奪取はおろか志位委員長が目論む野党連合、「国民連合政府」は夢のまた夢。選挙で勝つため、つまり権力を手にするために原理原則は一旦、押し入れにしまっておこうというわけだ。手始めに国会開会式に出席した。
なぜ今なのか。昨年の一連の安保法案反対運動の中で、「色がついていない(=大衆化している)若者」がどれだけメディアにとって扱いやすいかを思い知ったのではないだろうか。いくら若者でも民青の集まりでは(赤旗以外の)どの媒体も取り上げづらい。だがSEALDsを媒介すれば、反対集会で挨拶する志位委員長の姿さえ、全国紙に堂々と取り上げられる。
全国紙が大々的に報じ、若者がネットで拡散してくれるので、共産党主体では苦戦するデモや集会の人集めも容易だ。SEALDsは共産党アレルギーの中和剤として機能したのだ。
おまけに接近することなど考えられなかった野党に、SEALDsが「大人のみなさん、本当に反対したいなら団結してください! 立憲主義を守りましょう!」と言ってくれたわけだ。当然、権力への色気も出てくる。その野党連合の頭を取りたいと共産党が考えるのも自然ではある。
■SEALDsはオタサーの姫?
しかし傍から見ていると、これがプラスに働くとも思えない。共産党も旧社会党と同様、いつかは「現実路線」に向かわなければならないと思っていたかもしれないが、SEALDsを露払いにして原理原則まで捨て、党名まで捨てようとする共産党の動きは、崩壊の始まりにしか見えない。「あの」確かな野党・共産党がまさかそんな間違いをするだろうか……と思ってしまうのだが、SEALDsと共産党を見ていると、オタサーの姫に振り回されるオタクたちの姿を重ねてしまう。
オタク的趣味の集まりで女子の入会が珍しいサークルにおいて、客観的に見たら大してかわいくもない(場合が多い)紅一点の女子は、その他の男子から姫扱いされる。鍵は「希少価値」。女性が寄り付かないと思われていた僕らの吹き溜まりに舞い降りた天使。女性慣れしていない男子に、気がありそうなそぶりを見せれば姫に尽くしてくれる。色気と下心の応酬によって成り立つ下僕システム。その快感に、姫の要求はエスカレートする――。俗に言うオタサーの姫とはこういうものだという。
私自身もオタク的趣味があるのでオタクに対する侮辱はヘイトスピーチとみなすが、手ごろな三次元萌えに堕ち客観性を失ったオタクに情けは無用。同様に、これまで掲げて来た理想を捨てて目の前の人参に涎を垂らす共産党に情けは無用だ。
色のついていない若者で、しかも時にシャレオツ(おしゃれではない)、時にゆるふわ、時にその純粋さで汚れた大人を成敗せんとするSEALDsの輝きに、誘蛾灯のように惹きつけられる人がいても仕方がないとは思う。だがSEALDsの正体はオタサーの姫。国会前に若者が少ないから、政治を表立って語る若者がいないから、輝いて見える。少し前は「若者と戦争」と言えば「ハーフは劣化が早い」でおなじみの古市憲寿氏が使われていたが、若さと勢いでSEALDs奥田愛基氏にお株を奪われた。
来る十八歳選挙権の、いったい何パーセントを彼らが共産党その他の野党にもたらすというのか。逃げて行く票と一体どちらが多いのか。
オタサーの姫は時にサークルクラッシャーにもなるという。サークルクラッシャーとは、仲間内に複数人が関与する男女関係を作り、こじれさせ、組織を崩壊させる人物のことだ。各政党・議員がSEALDsに見出す利用価値の温度差などで野党連合が崩壊する、あるいは共産党が、SEALDsを露払いにしての大衆化で、社会党→社民党と同じ末路をたどり崩壊する……というシナリオもあり得る。
■〝ほんまもん〟のクラッシャー登場
一方で、いくらなんでもあの共産党が、そんなに簡単に崩壊の道を歩むわけがない、とも思う。確かに共産党の財政状況は悪化している。しんぶん赤旗の購読数は減少傾向で、〇六年に百十五億円あった実質収入は、〇九年には九十億円まで減少。昨年末には代々木の「都委員会ビル」の売却まで明らかになった。
貧すれば鈍する。志位委員長が言うように「新たな戦い」に入らなければジリ貧なのも事実。一見、振り回されているように見えながらも、オタサーの姫・SEALDsを巧みに利用し、戦いに打って出ようというのか共産党……などと考えていたら、大事なことを思い出した。小沢一郎氏である。
〈「リアル」政治に踏み出す共産 接近する志位氏と小沢氏〉
「よく決断してくれた。この年になって、志位さんと一緒に政権取りができるとは思わなかった」(小沢)「私たちは政権を取ったことがない。いろいろと教えて下さい」(志位)――「これができなければ野党連合なんてできないぞッ!」と小沢氏に言われて走り回る志位委員長が目に浮かぶ……。共産党における政権経験者の希少価値、権力への色気と下心を巧みに利用する、まさにオタサーの姫である。
小沢一郎氏という〝ほんまもん〟の政党クラッシャーと手を結ぶ、共産党の明日はどっちだ!
梶井彩子
ライターとして雑誌などに寄稿。
@ayako_kajii