「真田丸」浮沈の鍵は草刈さんが握っている


▲大河で“王道”の戦国を描く「真田丸」の命運やいかに!?(公式サイトより)

どうも新田です。NewsPicksで記事がdisられる度にステキな金縛りを受けたような心境です。いよいよ今夜から「真田丸」が始まるわけですが、NHKとしては歴代大河で最低視聴率に終わった「花燃ゆ」からのV字回復を期し、脚本の三谷さんにとっても今ひとつだった「新選組!」からのリベンジ、主演の堺さんもついに掴んだ大河の主役という流れで、失敗できないプレッシャーも例年になく大きそうです。

「花燃ゆ」と違い、分かりやすい顧客層


「花燃ゆ」不振の主な理由を振り返ると、各所でも指摘されるように、視聴者ターゲット層が曖昧でした。吉田松陰の妹の視点から、維新を切り拓いた若者たちの成長群像劇で幕末好きの男性ファンに訴求するのかと思いきや、中盤は毛利家の奥御殿に舞台を移し“なんちゃって大奥” みたいに展開となって、「篤姫」ファンの女性狙いに走るものの、劇的な回復に至らず、維新後は地味な群馬のローカル行政改革モノになる迷走を繰り返し、もう最後は誰が見たいのだかよく分からなくなる展開でした。

「真田丸」は大河鉄板の戦国ファンに絞って訴求しやすい。特に重点ターゲットはどの層なのか。「半沢直樹」の堺ファンも入って来ましょうが、同じ戦国モノである「軍師官兵衛」の視聴者層を分析したスイッチ・メディア・ラボ社の調査にもあるように、65歳以上の男性が頭一つ抜けているという、実にわかりやすく、想像通りの状況です。男女に広げても50代以上が“支持基盤”になっていのは、おそらくNHK内部のマーケティング調査でも似たような傾向でしょうから、ドラマの顔である配役は、自民党の候補者選びと同じく、「安心」「安定」「おなじみ」の手堅い戦略でいいということになります。

「大河初出演」を「新選組!」と比較すると…


主演の堺さんは視聴率40%の国民的ドラマで主役でしたから申し分ありません。ポイントは脇を固める役者さんたちのラインナップになるわけですが、昨夏の主要キャスト発表時は、思った以上に安定路線に走ったなというのが第一印象でした。

2004年の「新選組!」は数字的に悪くはなく、大河初の続編も制作されるなど、一定のファンは獲得しましたが、当時シニア層から「これは大河なんだろうか」と訝る声もよく聞かれた理由の一つが、“らしからぬ”冒険的なキャスティング。「真田丸」と、主要キャストに占める「初大河」印の有無を比較してみると、一目瞭然。

吉田羊さんは初めてと思いきや、「江」で細川家の侍女役で出ていたというマニアックな出演歴は今回知りました。とにかく、まあ手堅いというか、王道路線。「秀吉」で滝川一益を演じた段田さんが同じ役を20年ぶりにされるというのにも驚きましたが、やはり草刈正雄さんが真田昌幸を演じるというのが、大河主要顧客層をホッとさせる「安心・安定」路線の象徴であり、今回の物語のキモではないかと考えます。ええ。

父子伝承の物語、今作はどうか


私、小学3年でしたが、30年前のNHK大型時代劇「真田太平記」で幸村(「真田丸」では信繁)を演じたのが草刈さんでした。



若い人に補足説明しておくと、この当時、制作費高騰で3年間、大河ドラマは時代劇路線を取りやめ、その代わりにNHKは、時代劇ファンの“救済策”として、水曜夜8時に大型時代劇の枠を設けていたんですね。まあ、予算は減らされたものの、実質的に“大河”だったわけですが、草刈さんの幸村が、爽やかな青年武将から大坂の陣で風格漂う名将へと成長していく様子を見ていくのが見応えありました。

史実での幸村(信繁)について「一発屋」などと愚弄する口の悪い歴史ファンもおりますが、実際、前半が人質生活が続き、華々しい活躍をしたのが関ヶ原と大阪だけだったので、やはり大黒柱である昌幸の知将ぶりが物語の主軸にならざるを得ません。信濃の小領主が織田、上杉、北条、徳川など大国を相手に弱者の戦法と知恵を駆使した昌幸を、「真田太平記」では故・丹波哲郎さんが演じ、強烈な存在感を放っていました(後年、テレ東で真田幸村を描いた時代劇でも再演したほどの当たり役)。「真田丸」の予告編を拝見した限り、草刈さんの演技は若き日に共演した丹波さんを意識しているように感じましたが、どうでしょうか。

用兵と権謀に長けた昌幸に幸村が、どう薫陶を受けて成長していくのかも見どころ。真田太平記では、流刑先の九度山で昌幸が幸村に大阪城の出城(のちの真田丸)を築くアイデアを授けるシーンが戦術家としての父子伝承を象徴するようです。

今度は三谷さんが、どういう父子伝承を描き、草刈さんと堺さんがどう演じていくのか。年配の視聴者は、なんとなく霊界の丹波さんを“祖父”的に想起させるような安定感が出てくると、作り方として足場を築けてきているのかもしれません。今夜が楽しみです。
ではでは。


新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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