1982年のNYを舞台にした映画「エンパイア・ステート」では、現金保管会社のベテラン警備員が新入りの主人公に「深く考えるな、女を見つけて結婚して家を買ってしまえ」と教えていました。あの頃は、家を買うのがまだ手に届くアメリカン・ドリームだったんです。
しかしリーマン・ショックを経た今、ニューヨーカーを中心に都市部での住宅お買い上げは夢のまた夢と化しています。一因に外国人を中心とする投機家の存在が挙げられ、米財務省は遂に高級住宅の匿名購入者を炙り出し履歴をつける方針を固めました。まずは不動産市場の安全資産と謳われるマンハッタンと、マイアミから手掛けるとか。今後は不動産会社に購入者の名前など情報開示を求め、マネーロンダリングを撲滅していきます。そういえば、セントラル・パーク南端付近57丁目にそびえる100億ドルのペントハウスを手中に収めた方は、中東系やらアジア系との噂が流れてましたっけ。これまで外国人をはじめとした富裕層はペーパー・カンパニーの名前での購入が可能でしたが、今後当局はきっちり個人名を突き止めていきます。
外国人が殺到した影響もあって値上がりし続けたニューヨーク市で、住宅を取得するのにどれだけ時間が掛かるのでしょうか?
不動産情報会社スマートアセットによると、18.4年というから衝撃的です。しかも、前提が全く庶民のレベルではない点に注目。1)年収10万ドル(約1170万円)、2)頭金20%、3)住宅ローン金利4.5%、4)契約手数料2000ドル——に設定して、この年月ですよ。
NY市の次に困難極まりないのは、金融危機後に住宅価格の高騰が著しい西海岸ハイテク地域です。カリフォルニア州サンノゼが最も長く16.73年、ワシントン州シアトルは14.9年、カリフォルニア州サンフランシスコは14.6年を要するんですって。IT関連の職が集まる地域はより多くの人が流れ込むだけに、仕方ありません。そのほかカリフォルニア州オレンジ・カウンティが10.8年、同州ロサンジェルスは8.8年、同州サンディエゴは8.6年、ハワイ州ホノルルが8.6年と続きます。
全米都市別、マイホーム購入期間マップはこちら。
逆に、一番お買い上げしやすい都市はどこかというと・・・NY州にある、あの場所です。
そう、アルバニー(オルバニとも表記します)。NY州都のこちら、平均住宅ローン支払い額は164ドル、平均住宅価格は4万488ドルですから、お買い得過ぎますよね。
以下、お手頃な都市or郡トップ10。都市or郡の名前の次は順番に家賃の支払いが住宅購入額と合致する年数、平均住宅ローン支払い額、平均家賃、平均住宅価格となります。
1位 NY州アルバニー 1.2年 164ドル 907ドル 4万488ドル
2位 モンタナ州カーター 2.0年 442ドル 890ドル 10万8936ドル
3位 テキサス州バーレソン 2.0年 541ドル 1239ドル 13万3515ドル
4位 ケンタッキー州ハリソン 2.0年 358ドル 747ドル 8万8206ドル
5位 ルイジアナ州ウェスト・バトン・ルージュ 2.0年 548ドル 1061ドル 13万5214ドル
6位 カンザス州ハスケル 2.0年 474ドル 1016ドル 11万6921ドル
7位 ミシガン州メイソン 2.0年 410ドル 926ドル 10万1119ドル
8位 アイオワ州リングゴールド 2.0年 354ドル 744ドル 8万7227ドル
9位 アラバマ州エルモア 2.0年 408ドル 922ドル 15万3105ドル
10位 ミシガン州ヒルデール 2.0年 408ドル 922ドル 10万682ドル
全米では3.3年、平均住宅ローン金額は535ドル、家賃は1030ドル、住宅価格は13万1992ドルでした。かなり低い数値で住宅購入額と家賃が見合う年数もどういう基準か判然とせずスッキリしない内容ですが、いずれにしても大都市での住宅購入が至難の業ということだけはお分かり頂けたでしょう。お手頃な住宅ローン支払い額の都市or郡のトップ10は人口が10万人以下が目立ち、アイオワ州リングゴールドにいたっては2010年時点で5131人という過疎地です。どおりで住宅保有率が2015年4-6月期に63.4%と、約30年ぶりで最低を更新したはずですね。同年7-9月期には63.7%へ若干上昇してましたが・・。
(カバー写真:You Belong In Longmont/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年1月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。