ダボス会議は社会人のワールドカップ --- 南 壮一郎


ダボス会議期間中は、街中で大小250以上の公式セミナーが開催される。

その全ての中枢が「コングレス・センター」であり、メイン会場では各国の元首が順番にスピーチを実施している。

米国のバイデン副大統領、英国のキャメロン首相、フランスのヴァルス首相、カナダのトルドー首相など、これぞ、政財界のワールドカップというような顔ぶれが次々と登場する。なんとも贅沢な体験であり、彼らを目の当たりにすることで、ダボスに来たことを改めてひしひしと実感した。

キャメロン首相の存在感は圧倒的


もちろん、その国特有の議題や課題をふまえて議論される内容がもっとも重要ではあるのだが、登壇者によって、佇まいや口調、表情やジェスチャーを交えながらのプレゼンテーション手法が一人ひとり大きく異なり、個人的には、人前で話す機会が増えている自分のスキルアップにつながるのではないかと思い、彼らの演説手法を勉強させてもらってもいる。

特に、英国のキャメロン首相の圧倒的な存在感は群を抜いていて、ステージを左右にゆったりと歩きながら話す姿に見惚れてしまった。どうしたら、あのような話し方ができるのだろうか? 彼の一挙手一投足をじっくりと見ながら、耳を澄まして聞いてみたところ、素人なりに以下のことを感じた。

・そのとき話している話題と次に話す話題をつなぐ際に、絶妙な「間」を作っていて、聞く側に少し考える時間を与えている
・声の高低や強弱に、誰もがわかるほどの明確な差がある
・意図的に話すテンポに緩急をつけている

東京五輪の招致プレゼンの際、プレゼンのコーチの存在が注目されたが、きっと各国のトップも猛烈に練習しているのだろう。はたして、彼らは日々どれくらい練習をしているのか。聞いてみたいものだ。

また、メイン会場以外の場所では、今年のダボス会議のテーマである「第4次産業革命」に沿って、30名から100名ほどの観衆を対象にパネルディスカッションが繰り広げられている。ちなみに「日本」というキーワードで公式セミナーを検索すると、

・A World Without Work(仕事がない世界)
・Rebuilding Fukushima: Lessons for the World(福島再生:世界への提言)
・Japan’s Future Economy(日本経済の未来)

という3つのセミナーが見つかった。

日銀の黒田総裁、甘利経済再生担当大臣、三菱商事の小島会長、日立の中西CEO、サントリーの新浪社長、三菱重工の大宮会長等が登壇している。

世界の有名人をそこかしこで見かけるダボス会議


ただ、「実は、こうした公式セミナー以外にダボス会議の醍醐味がある」と、ベテラン参加者が教えてくれた。

確かに不思議に感じることがあった。クロークで並んでいたら、僕の前にFacebookのシェリル・サンドバーグCOOが立っていたり、喫茶店でふと隣を見たらU2のボノがコーヒーを飲んでいたりする。夜のレセプションでは、レオナルド・ディカプリオやThe Black Eyed Peasのウィル・アイ・アムが談笑している。それにも関わらず、公式セミナーでは彼らの名前を一切見かけない。

いったい、彼らは、どこで何をやっているのか……? 実は、さまざまな団体が、表には出てこない「裏」セミナーを街中で多く開催しているのだそうだ。僕が所属しているヤング・グローバル・リーダーズ(YGL)の仲間の中には、ビル・ゲイツ氏との朝食会に参加した人や、僕が憧れている経営者の一人であるヴァージン・グループのリチャード・ブランソン会長と、たったの数名で仕事の未来について語り合う機会に恵まれたという人もいる。正直、うらやまし過ぎる。

ちなみに、YGLの運営事務局も、僕たちのためだけに「裏」セミナーを開催してくれた。アリババのジャック・マー会長、米国のジョン・ケリー国務長官、そして、JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモン会長兼CEOと、小さな会議室で目と鼻の先の近さで話を伺うことができ、どれも印象深い時間となった。

アリババの会長が教えてくれた大切なこと


ジャック・マー氏は、ダボス会議期間中、分単位でスケジュールが入っているといわれているが、僕たちのために1時間も割いてくれた。

講演は、彼が10年前、まだ世界中の誰もアリババのことを知らない頃に、YGLの中国代表に選ばれ、ダボスに初めてやってきたという内容で始まった。左右を見渡しても何もわからない、誰も知らない、誰にも興味ももってもらえない状況を体験し、「俺はいつかこの世界で勝負したい」と強く思ったそうで、ダボスは彼にとって特別な場所であるとのことだった。

「そういう想いを抱かせてくれ、機会を与えてくれたYGLのコミュニティーに恩返ししたい」と思い、今回、講演を引き受けてくださったという。助けてくれた全ての方々に感謝するだけではなく、行動をもって礼を尽くすようにと、僕たちに教えてくれているように感じた。そして最後に、「Make it HAPPEN!」と、ビックリするくらいの大きな笑顔とドでかい声で叫び、みんながスタンディング・オベーションするなか、会場を去っていった。まるで漫画のワンシーンのようだった。

まだ、ダボス会議に参加してたった1日しか経っていないが(1月21日現在)、世界の、それも世界最高峰の舞台に参加させてもらい、ビンビン感じることがある。

「俺って、本当にちっちぇーなぁ」

世の中をよりよく変えてみたい。世の中がビックリするような新しい体験を提供してみたい。大笑いしながら、世界中の仲間と切磋琢磨したい。やりたいことばかりだが、僕たちはまだ何もできていない。そして、だからこそ、前に向かって走り続けなくてはならない。描き続けなくてはならない。

ここから数日間、刺激の連続であることは間違いない。少年時代から学生時代まで没頭していたサッカーでは、ワールドカップ出場は夢のまた夢であった。ダボスの、このコングレス・センターは、社会人としてのワールドカップの一つの形なのではないかと勝手に思っている。そして僕は、自分が社長を務める会社のみんなを代表して、ここに立たせてもらっている。

さあ、Make it HAPPEN!


南壮一郎
1999年、米・タフツ大学卒業後、モルガン・スタンレー証券株式会社に入社。2004年、新プロ野球球団設立に興味を持ち、楽天イーグルスの創業メンバーとなる。その後、株式会社ビズリーチを創業し、2009年4月、管理職・グローバル人材に特化した会員制転職サイト「ビズリーチ」をはじめ、20代向けレコメンド型転職サイト「キャリアトレック」や日本最大級の求人検索サイト「スタンバイ」などを運営する。創業7年目で従業員数561名(2016年1月)の組織へと成長させる。世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダーズ2014」に選出される。

<連載これまでの記事>
(1)マイナス11度の「ダボス」が世界一熱い場所に
   https://agora-web.jp/archives/1667257.html


編集部より;この記事は、株式会社ビズリーチ運営の「みんなのスタンバイ」に掲載された南壮一郎社長のダボス会議体験レポートの連載、2016年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル記事をお読みになりたい方は、こちら へ。