1月FOMC、3月利上げのカードを温存 --- 安田 佐和子


1月26~27日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、予想通りFF誘導金利目標の据え置きを決定しました。世界経済の減速や金融市場のボラティリティ急伸に懸念を示しつつ、3月利上げの可能性を排除せず。マーケットは株安・債券高・ドルほぼ横ばいで反応したのはご周知の通りですね。

声明文の主な変更点とポイントは、以下の通り。

【景況判断】
前回:「経済活動は緩やかに拡大した」

今回:「経済成長は昨年鈍化したものの、労働環境は一段と改善した。」
※米7-9月期国内総生産(GDP)は前期比年率2.0%増だったが、米10-12月期GDPは消費の鈍化、在庫投資の伸び縮小、機器投資の減速、純輸出の寄与度低下などを背景にアトランタ連銀の試算では1月20日時点にて0.7%増へゆるむ見通しだ。一方で米12月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比29.2万人増と、年初来で2番目の高水準。2015年のNFPは266万人増となり、1999年以来で最高に達した2014年の291万人に次ぐ高水準となる。2015年のNFP・月平均では22.2万人増と、こちらも2014年の24万人以下ながら1999年以来で2番目の高水準に至った。

前回:「家計支出と企業の固定投資は堅調なペースで拡大」

今回:「家計支出と企業の固定投資はゆるやかなペースで拡大。」
米12月小売売上高が減少しホリデー商戦も予想以下だったように消費は振るわず。企業の設備投資も、エネルギー関連を中心に減速する見通し。

前回:「しかしながら、純輸出は軟調だった。」

今回:「しかしながら純輸出は軟調で、在庫投資は鈍化した。」
※米11月企業在庫は2ヵ月連続で減少し、在庫投資の減速の可能性が点灯。

前回:「雇用の増加や失業率の低下など一連の労働指標における改善は、労働資源の活用不足が減退したことを示す。」

今回:「力強い雇用の増加を含む一連の労働指標は、労働資源の活用不足がさらに低下する可能性を示す。」
※米雇用統計・NFPが改善した一方、失業率が10-12月にわたり5.0%で下げ止まったため失業率の言及は削除。

前回:「マーケット・ベースのインフレは低水準を維持し(remain low)、経済指標ベースのインフレは若干低下した(edged down)」

今回:「マーケット・ベースのインフレは一段と低下し(declined further)、経済指標ベースのインフレは足元ほぼ横ばい(are little changed)だった。」※5年先・5年物ブレーク・イーブン・インフレ率は過去最低を更新したものの、米12月消費者物価指数(CPI)コアは前年同月比でベース効果を受けて年初来で最高となった

【統治目標の遵守について】

前回:「国内と海外の動向を考慮すると、委員会は概して経済活動と労働市場のリスクが均衡とみなす。」

今回:「削除」
※中国発の世界景気減速懸念や原油相安を背景に米株の3指数がそろって調整入りしたほか、VIX指数も1月20日に一時32.09と2015年9月1日以来の水準へ急伸したため、世界経済と金融市場のリスクに配慮。

前回:「インフレは、エネルギー価格と輸入価格の一時的な下落効果が減退し労働市場が一段と強まるにつれ、中期的に2%へ上昇すると見込む。」

今回:「インフレはエネルギー価格の低下を一部反映し短期的に低水準で推移し続ける見通しだが、エネルギー価格と輸入価格の一時的な下落効果が減退し労働市場が一段と強まるにつれ、中期的に2%へ上昇すると見込む。」
※米12月CPIがエネルギーとコアそろって前月比で低下したほか、今年の投票メンバーであるセントルイス連銀のブラード総裁は講演で原油安に伴うインフレ減速懸念に言及済み。

前回:「委員会は経済活動と労働市場におけるリスクと見通しは概して均衡しているとみなすが、世界経済と金融市場の動向を注視していく。」

今回:「委員会は世界経済と金融動向を注視し、労働市場やインフレへ及び見通しをめぐるリスク・バランスへの影響を評価していく。」
※「概して均衡」との文言を削除、世界経済および米国の経済減速をはじめ金融市場の動向に配慮。

【政策金利について】
前回:「委員会は今年、労働市場が大いに改善したと判断し、インフレが中期的に2%へ上昇することに相当な確信を持つ。」

今回:削除
※インフレ減速への懸念に対応。

前回:「経済見通しと政策決定が将来の経済活動に影響する時間を踏まえ、委員会はFF金利誘導目標を0.25~0.50%へ引き上げることを決定した。金融政策は今回の利上げ後も緩和的であり続け、それによって労働市場における一段の改善とインフレ目標値2%の回帰を支援する。」

今回:「経済見通しを踏まえ、委員会はFF金利誘導目標を0.25~0.50%で据え置くことを決定した。金融政策は緩和的であり続け、それによって労働市場における一段の改善とインフレ目標値2%の回帰を支援する。」
※前回の利上げに合わせ、文章を調整。

【票決結果】
票決は全会一致だった。輪番制である地区連銀の総裁が今年、カンザスシティ連銀のジョージ総裁、セントルイス連銀のブラード総裁、クリーブランド連銀のメスタ―総裁、ボストン連銀のエバンス総裁へ交代した。なお2015年は1月、3月、4月、6月、7月と5回連続でゼロ、リッチモンド連銀のラッカー総裁が利上げを目指し反対票を投じた9月と10月を経て、12月はゼロに戻った。

CNBCは、全てのチェック項目にイエスと判断。

(出所:CNBC)

FOMC声明文の変更を受けて、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙はFed番であるジョン・ヒルゼンラス記者による「Fedは世界経済減速に懸念表明も、3月利上げを排除せず(Fed Flags Worry On Global Tumult, Doesn’t Rule Out March Rate Hike)」と題した記事を配信。世界経済や金融市場の動向の変化を受けながら、利上げの道筋からの脱却を確約しなかったと伝えている。また経済と労働市場のリスク・バランスを明記しなかった点を指摘し、世界同時株安と景気減速への認識に疑問を抱かせるとも報じた。

3月利上げを見込むバークレイズのマイケル・ゲイピン米主席エコノミストは、声明文の内容に対し「3月15~16日開催のFOMCへ向け、選択肢を残した」と振り返った。FOMCに合わせ公表した“長期的な金融政策戦略における声明”最新版については、「インフレが対称的とみなし、経済・金利見通しの変更に合わせインフレをめぐる文言を調整した」と指摘した。

FOMCに合わせ公表された“長期的な金融政策戦略における声明”最新版では、“インフレが長期的に目標値である2%以下で推移すれば、委員会は懸念するだろう”との文言が加わった。セントルイス連銀のブラード総裁は目標値が“対称的”との認識には賛同したものの、今回の加えた文言は「インフレ見通しと目標値への乖離に当てた焦点が十分ではないとして反対した」という。

――FF先物市場では、3月利上げ織り込み度が19%と前日の25%から低下しました。とはいえ、経済見通しと労働市場のリスク・バランスについてスタンスを明示しなかったため、3月15~16日開催のFOMCで追加利上げを行う自由度は維持。米株相場はFOMC声明文に失望したとはいえ、3月利上げ反対派には希望の光が差し込んできたとも言えます。タカ派寄りと目されるセントルイス連銀のブラード総裁が、低インフレへのリスクを重視し始めているためです。従って今年の投票メンバー10人中、タカ派は3人から2人へ減少する見通しで「年2回」あるいは据え置きを期待する市場関係者には朗報となったことでしょう。

(カバー写真:FRB/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年1月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。