料理レシピで困って検索をするとクックパッドに引っかかる確率は相当高いはずです。私も重宝なのでしばしば使わせていただいています。特に一つの料理に対して様々な変化球のレシピがあり、自分で作らなくても「へぇ、こんな作り方もあるのか?」といろいろ想像できるところも楽しいのであります。
そのクックパッドで創業者と現経営陣が揉めに揉めています。創業者で44%の株式を所有する佐野陽光氏が社長の穐田誉輝氏他、佐野氏を除く現経営陣全員を首にする引導を渡しました。いわゆる株主提案です。これを受け、クックパッド内乱を恐れた株式市場ではストップ安を付けるなど波乱状態に陥っています。
背景は佐野氏が料理レシピビジネスに特化し、日本から海外での浸透をはかるという垂直の経営方針に対して穐田氏は知育アプリからベビー関連、電子出版にウエディングとほぼ、料理レシピとは関係ない方向も含めた水平展開を行なっており、その方針の対立のようです。その為、佐野氏はほぼ単独で海外事業の展開を図るため、スペイン、インドネシア、アメリカなどで同業の事業の買収や提携を進めてきました。が、正直、投資効果は出ていません。では、穐田氏の国内事業の多角化はどうかといえばこれも実はさっぱりダメであります。
連結決算をみると2015年度第3四半期に於いて本業のレシピ事業関連は全体売り上げの81%とより強固になり、利益で見ると2014年第3四半期から貢献し始めた穐田氏の進めるEC事業はほぼ横ばいかむしろ下向き傾向にあります。
つまり、クックパッドは本業のレシピ事業がまだ伸びている最中でそれに「おんぶにだっこ」の経営状況にあることがうかがえます。佐野氏と穐田氏は共にこの状況から打破する為にお互いがお互いの道を選び、それぞれ別向きで事業展開をしたものの二人とも現時点では十分な結果を残せていない、ということになります。
佐野氏は慶応大学卒で就職せずにすぐに自分の事業会社を作り、その後、クックパッドの創業に至ります。穐田氏は青学卒でベンチャーキャピタルからカカクコムの社長に就任、2001年から06年まで在任し、同社の上場を支えてきました。そういう意味では両名とも熱いものを持っているのですが、企業経営という点では穐田氏の方が経験は豊富かもしれません。
私も小さいながらも経営者の端くれとして事業の成長を常に考えています。その際、指針となるのはビジネスのベクトルとその成長限界であります。このビジネスはもっと伸びるのか、もうだめなのか、寿命は何年あるのかこれがキーになります。創業者が創業事業に愛着を持つのは当たり前でそれに固執することはよくあるものです。例えば孫正義氏の弟である孫泰藏氏が率いるガンホーが「パズドラ」の大ヒットの後、次の作品が期待されたもののパズドラの世界制覇戦略に舵を切ったことが佐野氏の経営姿勢に非常に似ていると思います。
一方で穐田氏は一つの事業には賞味期限があることを前提に他事業をインキュベーションする姿勢を貫いています。発想としては悪くないのですが、鉄砲を「数撃ちゃ当たる」的なところが無いとも言えません。その点では堀江貴文氏の経営スタイルに近いかもしれません。
個人的には穐田氏の方がリスク分散が出来ますのでよさげに見えますが、佐野氏、穐田氏とも若いベンチャー精神旺盛の経営者ですからここはどちらかがリングの外に降ろされるという死闘は正しい選択には思えません。ただ、穐田氏は佐野氏の株主としての地位に対抗するにはMBOでもしない限り勝てませんから彼の経歴からしても一旦身を引くという決断を下しかねません。その際にはクックパッドの企業価値は相当下がらざるを得ない状況となるかもしれません。経営陣のもめ事が一般株主やユーザーへどれ位迷惑がかかるのかも考えてもらいたいものです。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 1月29日付より