米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が10日、米下院金融委員会にて行った議会証言での質疑応答で当然飛び出した質問こそ、マイナス金利と利下げについてです。
マイナス金利の導入について、イエレンFRB議長は「法的な問題について十分に調査していない。徹底的に精査する必要があるか未だ疑問だ」と回答しました。ブルームバーグが報じたように、法的権限に欠けるという障壁が立ちはだかるため、早々に断行できませんよね。2010年にマイナス金利を検討した当時も、法的な問題以外が意識されたと振り返ります。「好ましい手段との考えに至らなかった」と述べ、「マネー・マーケットへの影響を懸念し、米国の制度的環境では機能しないといった不安がある」と応じました。2015年11月当時と比べ、慎重な度合いが強まったようです。
利下げについては、完全否定しています。いわく「米連邦公開市場委員会(FOMC)は早々に利下げが必要な状況がやって来るとは予想していない」。その理由として「労働市場は改善し続けており、インフレ抑制要因は一時的」との認識を明らかにしました。ただ「景気後退への不安が台頭しているようで、リスク・プレミアアムが上昇中だ。米国あるいは世界的に急激な景気の落ち込みを確認していないものの、世界の市場動向が注視すべきと認識している」と付け加えています。そうはいってもマイナス金利への言及は、米景気が急激に落ち込んだ場合における政策の乏しさを露呈させましたね。さらに、米議会が持つマイナス金利導入への強い不信感を明白にしてしまいました。米大統領選とともに議会選挙を控えるだけに、質疑応答で有権者である預金者への不安をかき立てたくないという米議会の意志が透けて見え、金融市場を震え上がらせた可能性があります。欧州発のキャッシュ・クランチ懸念が渦巻くなかでは、尚更でしょう。
JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは、質疑応答を受けて「米議会がマイナス金利の合法性に懸念を巡らせているのは明らか」と振り返っています。他に同エコノミストが注目したのは、超過準備預金金利(IOER)。マキシーン・ウォーターズ議員(民主党、カリフォルニア州)が口火を切り、IOERは銀行への「補助金だ」とまで言わしめました。これに対し、イエレンFRB議長は短期金利を上昇させる上で必要なツールであり、量的緩和策(QE)のコインの裏返しであると説明。その上で、FedはQEにより4.5兆に膨らんだ保有証券の金利収入を米財務省への国庫納付金として還元している、と回答しています。フェローリ氏は「米議会がIOERに対しうず高く積もる準備預金に報奨を与えているようなものと認識しているため、イエレン議長の対応に満足したかは不透明」と振り返っていました。まあ結局のところ2008年、FedにIOERを付与する権限を与えたのは米議会なんですけどね。
【追記】(※アゴラ編集部 2月12日16:30)
11日に行った米上院銀行委員会でイエレンFRB議長は、マイナス金利について2010年当時のように「We are taking a look at them again」、つまり検討すると発言しました。これを受け、WSJ紙のヒルゼンラス記者は「イエレン、必要ならばマイナス金利を準備すべきと発言(Yellen Says Fed Should Be Prepared to Use Negative Rates if Needed)」と題した記事のほか、プレミアム有料版で「Fedはマイナス金利導入可能、ただ実施を望まず(Hilsenrath’s Take: Yes the Fed Can Go Negative; No It Doesn’t Want To)」と配信していました。WSJ紙は保守派ながら論調はハト派色を帯びがちで、共和党陣営と異なる論陣を張っているかのようです。
(カバー写真:Tim Evanson/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年2月11日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。