法王とロシア総主教の歴史的会合 --- 長谷川 良

日本時間13日午前にはもっと詳細なニュースが読者の手元に届いていると思うが、14日用のコラムとしては内容が古くなるので半日前の段階だが、以下の歴史的な会合の見通しとその背景をまとめた。

世界に約12億人の信者を抱えるキリスト教最大宗派、ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王フランシスコは12日午前(現地時間)、ローマからキューバの首都ハバナのホセ・マルティ国際空港内に向けて飛び立った。ハバナではロシア正教会最高指導者キリル1世との歴史的な会合が予定されている。東西両教会最高指導者の会合は1054年、教会のシスマ(分裂)以来初めてだ。

フランシスコ法王は12日から17日までメキシコ訪問、キリル1世は12日間の南米訪問の途上、両教会指導者はハバナで会合し、2時間余り“個人的な”会談を行う。

東西両教会指導者の会談は1週間前、モスクワとバチカンで同時に大きく発表された。ハバナではラウル・カストロ国家評議会議長(国家元首)の歓迎を受けた後、両指導者は会談に入る。その後、記者団の前に現れ、共同声明書に署名する。バチカンからの情報では、バチカンのキリスト教一致推進評議会委員長のクルト・コッホ枢機卿とモスクワ総主教座の対外担当ヒラリオン府主教も別個で個別会談するという。

フランシスコ法王とキリル1世の会談では、シリア、イラクの少数宗派キリスト教徒の状況やウクライナ紛争問題がテーマとなる。特に、ウクライナ問題では両教会の見解は大きく異なる。それだけに、フランシスコ法王とキリル1世のトップ会談でどのような話し合いがもたれるか注目される。

ウクライナの主要宗派、正教会は現在、3つに分裂している。ソ連から独立後、モスクワ総主教庁から独立したキエフ総主教庁系ウクライナ正教会が最大の正教会で、モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会がそれに続き、最後は独立正教会だ。正教会以外では、ポーランド国境線の西部を中心にウクライナ東方カトリック教会が強い。

西方教会と呼ばれるカトリック教会と東方教会と呼ばれる正教会は11世紀頃、分裂して今日に到っている。両教会間には神学的にも相違がある。例えば、正教は聖画(イコン)を崇拝し、マリアの無原罪懐胎説を認めない一方、聖職者の妻帯を認めている。しかし、両派の和解への最大障害は、正教側がローマ法王の首位権や不可謬説を認めていないことだ。

正教会でも最も影響力を有するロシア正教会は共産党政権との癒着問題もあって、冷戦終焉直後は教会の基盤も非常に脆弱だったが、ここにきて再び力を回復してきた。同時に、自信を取り戻してきた。バチカンに対しては、「バチカンは旧ソ連連邦圏内で宣教活動を拡大し、ウクライナ西部では正教徒にカトリックの洗礼を授けるなど、正教に対して差別的な行動をしている」と激しく批判し、これまでローマ法王とモスクワ総主教のトップ会談を拒否してきた経緯がある。

フランシスコ法王によれば、モスクワ総主教との会談を実現するために2年間準備してきたという。同法王は2014年12月、イスタンブールからローマへ帰国途上、「キリル1世とはいつでも、どこでも会う用意がある」と述べている。

なお、両教会指導者の会合では、ローマ法王のモスクワ訪問について話し合われるのではないか、といった憶測が流れているが、ヒラリオン府主教は法王のモスクワ訪問の可能性について、「時期尚早」という立場を示唆している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年2月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。