そこで、あえて擁護論を展開してみたいと思います。
ちなみに、世代は重なるんですが、私はSPEEDのファンでも何でもありません。
まず基本的に参院選の場合、30歳以上に被選挙権が認められており、だれにでもそれを行使する権利があります。
そして、60を超えて一仕事終えた感のある人ならいざしらず、32歳での立候補はその後の人生も考えると本人は相当悩んだはず。このご時勢、みんな嫌がる「政治」ですから。刺青師の次に不人気な職業です。かつて小沢一郎に惚れ込んで当選したスポーツ選手がいましたが、そういう影響力の強い政治家の影も感じませんし、本人はそれなりの信念をもって決意されたのではないでしょうか。
また、彼女は障害者福祉、母親の声を国会へという明確なアジェンダを持っています。沖縄の基地問題や安全保障問題とか色々注文をつけられているみたいですが、国会議員全体を見ても一つか二つ、明確なアジェンダを持っていれば良い方でしょう。
さらに、知らない人はけっこういますが、参議院選比例代表枠の候補者って多くが組織内候補です。農協、医師会、建設業、土地改良、歯科医師会、看護協会、薬剤師会、などなど。組織内候補はある程度組織の意見を代弁することが求められますが(そのこと自体の是非はおいといて)、彼女はそうした明確な組織は抱えていないので、国民にとってのフェアな政治判断を期待しやすい候補であると見ることもできるのではないでしょうか。
今井さんは16歳で歌手デビューし、その後国民的グループまで駆け上り、さらに結婚と出産も経験しています。その過程では想像を絶する努力を払い、度胸を必要とし、苦悩も経験したことでしょう。私のような凡人には想像できない世界を生き抜いてきた彼女は、政治の世界でも努力を払い、国民とのコミュニケーションにおいても卓越した力を発揮する可能性もあります。
本人の人生の選択について最も適切な評価、アドバイスができるのは周囲の人間だと思います。グループのメンバーや家族、事務所が納得しているのであれば、立候補という意思決定そのものについては赤の他人である私たちはとやかく言える立場ではないかもしれません。私たちはそれぞれの立場で、これからの選挙、そしてその後の彼女の活動を見守り、支え(または闘い)、評価を加えていくことになるでしょう。
自民党は現行の選挙制度のもとにおいて適切な選挙戦略を実行に移したのだと思います。茂木選対委員長はさすがだなと舌を巻きました。仮に参院選において彼女が大量得票で当選したとすれば、自民党の戦略は正しかったという証になりますし、その事実を批判するのであれば人気投票の側面は決して否めない現行の選挙制度に対して制度論として批判を加えるべきだと思います。
どうしても注目を集めてしまう候補予定者なので批判も多く集まるのは理解できますが、現職の国会議員でも政策形成能力や個人としての人格いずれにおいても大いに疑問を抱かざるを得ない方はたくさんいます。それは政治家の評価が困難であったり、現行の選挙制度が決して完璧ではないからではないでしょうか。
そうした背景に思いを巡らせないまま、彼女の立候補の適否だけを議論していても生産的ではないように思います。心情的にはよく分かるのですが。
しかし政治家という職が敬遠されがちな風潮のなか、勇気を持って手を挙げた彼女の決断は同じ政治家としてエールを送りたいと思います。おそらく、最も辛い思いをし、彼女に対して多少の文句を言う権利があるのは今までのファンだけかもしれません。
清山知憲 宮崎県議会議員(自由民主党、宮崎市選出)
1981年生まれ。東京大学医学部を卒業後、沖縄県立中部病院、米国ベスイスラエルメディカルセンターでの研修を経て、現在2期目。議員業の傍ら内科診療にも従事する。
Twitter: @T_Kiyoyama
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