ソフトバンクと楽天、M&Aの道程。 と一考察。

加藤順彦MSC

かつて営んでいた広告会社(日広→NIKKO)がインターネット方面にピボットした1996年ごろから、その経営から退いた2008年まで、僕個人はいわゆるネット系のメディア各社や広告主と会社を通じてがっつりお取引をしていた。

(今はシンガポールで個人のエンジェル事業家なので、残念ながら日本の会社とはほとんど商取引がない。)

当時、特に商材(広告媒体)の仕入れでお取引が深かったのはソフトバンクとその関連会社であった。

具体的には 出版事業部(後のソフトバンクパブリッシング→ソフトバンククリエイティブ)、サイバーコミュニケーションズ、ソフトバンクZDネット(後のアイティメディア)、そしてもちろんヤフージャパンである。

ぶっちゃけると1998~2003年あたりは、日広の仕入れ原価の60%の支払先はソフトバンク帝国だったのでのはないだろうか。実に、たいへんお世話になったのである。

当のソフトバンク自体は、その頃の前後目まぐるしく業態を変えていた。

1994年、同社は株式を店頭公開し、その資金を元にM&AやIT関連企業への投資などを積極的に行う様になっていた。

端的に書くと、それは創業事業であった流通業・出版業から、 (2004年の日本テレコム、2006年のボーダフォン日本法人の買収に代表される)情報通信業への転換であった。

そしてその傍らでは、海外のイケてる会社(=経営者)を見つけては、どっかーんと3割内外のシェアで出資し、大成功を収めた。
米Yahoo!、そして史上最大の上場といわれたalibabaはまさに最右翼といえるだろう。次はインドのスナップディールで同じ夢をみている。

そう、特に21世紀にはいってから、日本国内では事業ドメイン(情報通信)を絞って完全買収し本体事業として取り込み、海外では大口出資で伸び伸び放牧 というのが孫さんのパターンとなっている、と思う。

(斯様な意味では、2012~13年のスプリントの買収はそのパターンをはみでており、新しい挑戦となっている。)

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かたや僕がかつて営んでいた広告会社(日広→NIKKO)が当時(1998~2008年)インターネットどまんなかに居たにもかかわらず、ほとんど…というか、広告媒体の仕入れでも、広告主としても、僅かしかお取引がなかったのが楽天グループである。

インフォシークはもともとは重要仕入れ先であった。CGIBOYもワイノットもライコスジャパンもそうであった。 が、楽天グループになってからは、お取引が徐々にしぼんでいった。

もともとビズシークもGORAもイーバンク銀行もだいじなお得意先(広告主)だった。が、楽天グループになってから、広告出稿はピタリと止まっていた。

つまり、広告会社としての日広にとって、楽天とその界隈はいわば鬼門というか、グループ入りは即ちご縁が薄くなるキッカケとなっていた。

でも、楽天さんの視座でみると、それらのメディア(広告媒体)や、ネットサービスの取得は、グループの事業ドメインを拡大するのに、直結していた。

同社は2000年4月19日に株式を店頭市場に登録→595億円を調達して以降、そんなに会社自体はイケてはないけど、イケてそうな事業ドメインの負け組みたいなのを100%買収し、事業と人材を自社に飲み込み、強い事業体へと育ててきた。

2000年にインフォシークを、2001年にビズシークを買収。
2002年にメディオポート(golf port)、キープライム(CGIBOY)を子会社化。
2003年にアランからGORAを営業譲渡。マイトリップ・ネット(旅の窓口)、DLJディレクトSFG証券を子会社化。
2004年にあおぞらカードを完全子会社化。
2005年に国内信販株式会社を子会社化。
2009年にイーバンク銀行、ビットワレットを連結子会社化。

…しており、確実に事業ドメインの拡大・拡張を、買収により、果たしていっている。 取り込んだ事業機会を、自陣=楽天エコシステムに混ぜ込み、溶かし、動くカネを大きくしていったさま(楽天経済圏の拡大)は、実に見事であると思う。

一方で 2005年にアメリカのアフェイリエイト広告大手のLinkShareを買収し、海外への展開も開始している。
楽天のようなモール型のECサイトであったBuy.com(米国)も買収。 海外においても、楽天経済圏を拡大していく方向を明確にした。

一方で、社内『英語公用語』化を宣言し、社内外に楽天イズムを叩き込まれたグローバル人材を送り込んでいくことを打ち出している。

そして、特にリーマンショック以降は、明確に海外路線を打ち出し、日本国内での勝ちパターン同様にそんなに会社自体はイケてはないけど、イケてそうな事業ドメインの負け組みたいなのを買収→子会社化&現地法人設立進出による海外(米国・欧州・中国・東南アジア・ブラジル…)展開を繰り広げてきた。

電子書籍エンジンkobo、ネットワーク電話&メッセージングViber、動画プラットフォームVikiなどド派手な100%買収はいずれも大きな話題を呼んだ。そして、楽天イズムと英語力を身につけた戦士たちが各地に赴任していった。

(同社の海外のM&Aで詰み上がってきたのれん代は、昨年末段階でここまで大きくなっている。同社IR資料より拝借)

昨日2月12日、楽天はシンガポール、インドネシア、マレーシアのECモール楽天市場の閉鎖とkoboおよび仏PRICEMINISTERの減損償却を発表した。かなり衝撃的な内容ではあるが、現状を知る関係者からはようやく膿みだしにふみきったか、という感も強いのではないだろうか。

楽天は、中国でも合弁でのECモール事業の展開に失敗し撤退しているが、旅行事業者のシートリップ社へのマイノリティ出資では大きな利潤を得ている。

シンクロして発表された、先般のシンガポールに設立したベンチャー向けファンドRakuten Venturesの100億円レイズや、ECサイトLOCONDOのシリーズE(マイノリティ出資)発表はこれまでの、楽天の100%買収のみというパターンの変化を強く感じるものだ。

同社の、これからの新しい展開に大いに期待したい。