「田中レジーム」をぶっ壊す

2015年の政府統計が出そろった。実質成長率は0.4%(2014年は0%)。企業収益は過去最高だったが、実質賃金は最近では最低となり、消費支出も最低を記録した。これを意識してか、安倍首相の最近の演説は「最低賃金1000円」とか「同一労働・同一賃金」とか所得分配を強調するようになった。

個人消費

アベノミクスでは成長率も物価も下がり、ついにマイナス金利まで追い込まれた。それは図にも明らかなように、労働者から企業への所得移転が行なわれたからだ。リフレというのはインフレによって労働者の実質賃金を下げる政策だから、その目的は達したともいえる。

しかし賃金が下がったため、GDPの6割を占める個人消費が下がる一方、企業収益は投資されずに貯蓄され、不況はさらに深刻化した。これが中国発の株安で増幅され、そこにマイナス金利というサプライズが加わって円高・株安が急速に進んだ。

「それでも日経平均は民主党政権のときの2倍だ」という人がいるが、日経平均に入っているのは225社の大企業だけだ。東証1部全体でも1943社。全国の企業421万社のわずか0.04%である。こういう大企業には輸出企業が多いので、日経平均はほぼドル円レートに連動して動く。

つまり日経平均は、全国のごくわずかのトップ企業の業績を示しているだけで、それを基準にして経済政策を考えてはいけないのだ。ところが経済にうとい政治家ほど、日経平均には敏感だ。田原総一朗さんによれば「選挙の得票数はそのときの内閣支持率で決まり、支持率は日経平均で決まる」という経験則があるからだという。

安倍首相も日経平均を上げて気分を改善した功績は大きいが、それは経済全体の動きを示していなかった。これからは実体経済を改善する改革が必要だ。同一賃金・同一労働を実現するには、まず正社員の特権をなくして非正社員と対等に競争する労働市場改革が必要だ。それなしで最低賃金を規制して「結果の平等」を求めても、失業者が増えるだけだ。

日本経済の直面している問題は、安倍首相のいう「戦後レジーム」というより、1960年代から田中角栄が築いた田中レジームともいうべき開発主義の利権構造である。小泉首相が「自民党をぶっ壊す」といったのは、この田中レジームをぶっ壊すことだった。

そのねらいは正しかったが、これは「痛み」をともなう外科手術であり、その跡を継いだ第1次安倍政権は元のバラマキ政治に戻してしまった。金融政策は手術の麻酔にはなるが、第2次安倍政権は手術をしないで麻酔だけを打ち、その効果は切れてしまった。挙げ句の果てに出てきたのが、田中と同じ結果の平等では話にならない。