誰が欧州の分裂をもたらしたか --- 長谷川 良

独週刊誌「シュピーゲル」電子版(26日)によると、ドイツ南部バイエルン州の元州知事で「キリスト教社会同盟」(CSU)党首だったエドムンㇳ・シュトイバー氏は同国日刊紙「ヴェルト」とのインタビューの中で、「欧州全土で極右派勢力が台頭してきた主因はメルケル首相の難民政策にある」と、メルケル首相を批判した。元州知事がいう「極右派勢力」とは、ドイツでは「ドイツのための選択肢」(AfDD)、フランスではマリーヌ・ル・ペン党首が率いる「国民戦線」、オランダではヘルト・ウィルダース党首の「自由党」、そしてオーストリアではシュトラーヒェ党首の「自由党」らを意味する。

シュトイバー氏は、「欧州の現状を打開するためには難民政策を変更することだ。具体的には難民受入れの最上限と国境への通過ルートを設定することだ」と主張する。その上で「難民政策には先ず、国の対策が必要だ。国境を開放すれば、殺到する難民問題はドイツが誘発した“ドイツの問題”だと理解されるだけだ」という。

ドイツでは旧東独地域で難民や難民収容所が襲撃されたり、放火されるという事件が多発している。ドイツ東部ザクセン州のクラウスニッツ(Clausnitz)で18日夜、難民が乗ったバスが到着すると、100人余りの住民たちがバスを取り囲み、中傷誹謗するという出来事があった。また、バウツェン(Bautzen)では20日夜、難民ハウス用の元ホテルが放火され、その消火作業を見物していた住民たちから大喝采が出たという。そのニュースが流れると、ドイツ全土で困惑と失望の声が飛び出した。

シュトイバー氏は、「ニュースを聞いたが、恐るべきことだ。ドイツ国民の81%は政府は難民問題を正しく掌握していないと考えている。わが国はまさに危険な状況下に陥っている。AfDのように、国民の不安を高めることでは問題の解決にはならない」と強調する。

ちなみに、ザクセン州のカトリック神学者フランク・リヒター氏は、「ザクセン州は相対的に同一民族の住民が住み、他の文化出身の外国人と共存した経験が乏しい。その上、社会は世俗化し、住民は宗教性に乏しい。また、ザクセン州を含む旧東独住民は民主主義という社会体制をまだ十分学んでいない」(バチカン放送独語電子版25日)と指摘している。

ARDの意識調査によると、旧東独ザクセン州の外国人排斥傾向の原因として、28%は「経済危機」、27%が「メルケル政権の難民政策」、17%は「州政治」、10%が「家庭と学校の教育の欠如」という結果が出ている。

隣国オーストリア政府は19日から、1日当たりの難民申請受付数を最大80人に、ドイツを目指す難民の入国も1日3200人とする厳格な政策を即実施した。すると、ドイツのトーマス・デメジエール内相が、「隣国の一方的な難民政策は受け入れられない」と強く反発。国境線の強化や制限に不満をもつギリシャは25日、駐オーストリアのギリシャ大使を召還させるなど、欧州28カ国は分裂の危機に直面している。

ギリシャの金融危機の時、欧州連合(EU)の加盟国はユーロの堅持で一体化を表明し、危機を乗り越えたが、中東・北アフリカから100万人以上の難民が殺到すると、欧州の各国は自国の利益を守るため国境監視を強化するなど独自政策を実行し、隣国と軋轢を生み出す状況が出てきている。

欧州の盟主を自負するドイツを10年間主導してきたメルケル首相は今日、自身の難民歓迎政策がどのような事態を生み出してきているかを目の前に目撃し、当惑している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年2月27日の記事を転載させていただきました(編集部でタイトル改稿)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。