加盟国はなぜ脱退するか --- 長谷川 良

人口10万人余りの太平洋上にある国キリバスがウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)に加盟した。加盟国の脱退が続いてきたUNIDOにとって、昨年加盟した太平洋上に浮かぶマーシャル諸島に続いての新規加盟国だ。


▲UNIDO第16回総会風景(2015年11月30日、撮影)

UNIDOの李勇事務局長は23日、「キリバスの加盟を歓迎する、同国の持続的経済発展にUNIDOも積極的に支援していきたい」とエールを送っている。

欧米主要国、米国、英国、カナダ、オーストラリア、フランス、ニュージランドなどはUNIDOの腐敗と運営の非効率性に嫌気がさして脱退して久しい。ちなみに、米国は1996年の脱退当時、「UNIDOは腐敗した機関」として分担金を払わず一方的にUNIDOから脱退した経緯があるほどだ。

李事務局長が2013年トップに就任した後も加盟国の脱退は続いた。ベルギーが脱退し、ギリシャ、デンマーク両国は今年末までには脱退する意向、といった具合だ。それだけに、UNIDOの厳しい会計を助けることは期待できなくても、マーシャル諸島とキリバス2国の加盟は李事務局長にとっては久しぶりの朗報といえるわけだ。李事務局長が小国の加盟にエールを送りたくなるのも理解できるというものだ。

さて、李事務局長は目下、UNIDOの機構改革、その第一弾として事務局内の機構刷新を推進中だ。権限を事務局長に集中させ、トップダウン形式で非能率化したUNIDOを刷新させようという狙いがある。

李事務局長は25日、加盟国の代表を集めてUNIDOの近況についてブリーフィングした。加盟国からは大使級を派遣する国はほとんどなく、参事官、書記官級を派遣する国が大多数を占めたという。加盟国といってもUNIDOの未来に対してあまり関心がないことが分かる。

ところで、同会議に参加した外交官によると、ブリーフィング後の質疑応答で日本とスぺイン2国の外交官が李事務局長に、「なぜ多くの国がUNIDOから脱退していくのかを説明して頂きたい」と聞いたというのだ。

日本はUNIDO最大分担金を担う国であり、スペインはといえば、脱退を内々決定しているといわれる欧州連合(EU)加盟国だ。その2国の外交官から、「なぜ加盟国が出ていくのか」と問い詰められたわけだ。

李事務局長は、「当時国と交渉によって話し合っていく」と答え、「なぜ出ていくか」という肝心の質問には答えなかった。事務局長としては当然かもしれない。加盟国の外交官が参加しているブリーフィングの場で、「なぜ加盟国は次々と脱退するか」という質問に答えることは恥の上塗りになってしまうからだ。

当方はこのコラム欄で、「UNIDOでは日本は中国の忠実な資金提供者となっている」(「国連機関のトップに4人の中国人」2016年2月18日参考)と指摘し、日本外交の奮起を促したばかりだ。日本は単なる資金提供国に甘んじるのではなく、UNIDOの刷新の為に積極的に発言して頂きたい。「加盟国はなぜ脱退するか」の質問はその第一弾と信じたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年2月27日の記事を転載させていただきました(編集部でタイトル改稿)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。