ロッテ臨時総会開催へ。親子逆転上場案の“功罪”とは

新田 哲史

▲兄弟対決は決着するのか(左は長男・重光宏之氏=ロッテ財団サイトより、右は次男・昭夫氏=韓国ロッテサイトより)


どうも新田です。ひなまつりはコアラのマーチの限定品でお楽しみください。その販売元のロッテはこの日曜日、長男サイドの要求を受けて臨時株主総会を開催することが決まりました。

ロッテ 長男が求めた臨時株主総会 6日開催へ
創業家の兄弟らの間で主導権争いが続く「ロッテホールディングス」は、副会長を解任された長男らが開催を求めた臨時の株主総会を来月6日に開くことを決めました。株主総会では、長男側が提出した経営陣の交代を求める議案が諮られます。(NHKニュース2月29日)

マスコミ報道的には、この日刊ゲンダイ品質保証のアレな見出しと同じく「“お家騒動”ますます炎上中」というところでしょうか。韓流ドラマ的な骨肉劇に焦点が集まりますが、追放された長男サイド、現経営陣の次男サイドどちらの経営方針を冷静に比較する視点もたまにはあっていいのかな、と考えています。

次男サイドの構想「親子逆転上場」とは


特に象徴的なのは、上場をめぐる構想で、長男サイドは「HD上場」。一方の次男は、日韓のロッテグループそれぞれの中核子会社である日本ロッテ、およびホテルロッテを上場させる「親子逆転上場」という相違があるところでしょうか。長男サイドとしては、HD上場により、従業員持株会が持つHD株の資産価値を大幅に上げてそれを全社員に還元すると提案しており、第2株主である持株会に秋波を送っているという話は先日書いた通りです。

長男サイドの提案は従業員側のメリットとしては直接的でわかりやすいわけですが、では次男サイドの「親子逆転上場」についてはどうなんでしょうか。

そもそも、「親子逆転上場」という形態自体が本当に珍しいんですよね。ここまでの事例を調べると、東証でもやっているのは全体の1%程度にあたる20社あまりしかやっていないのだとか。しかも、その多くは時価総額100億未満クラスの企業が多くて、ロッテのような業界ナンバーワン企業となると滅多にありません。

サントリーの事例から次男の真意を推測


トップカンパニーによる「親子逆転上場」の先例になるのがサントリーグループです。同社HDの筆頭株主は、創業した鳥居ファミリーの資産管理会社「寿不動産」。ありゃ、ロッテHDも重光家の資産管理会社とされる光潤社が筆頭株主なので、非常に似ており、ともに長く「鳥井商店」「重光商店」として、上場しない大手企業の代表格として知られてきました。しかし、グローバル展開のM&Aで、巨額の資金調達が必要になっていることから、サントリーはお先に上場。といってもHD上場は選択せず、2013年7月に中核子会社のサントリー食品インターナショナルを上場させ、その後、HD上場がいつになるのかと期待させる報道が浮かんでは消え、浮かんでは消え、ビジネスニュース界の観測気球として定番化しております。

サントリーが「HD上場」ではなく、「親子逆転上場」を選択したことを「奇策」と手厳しく評するビジネスメディアや専門家も当時おりまして、その背景として取りざたされたのは「資金調達をしつつも、鳥井家の支配はしっかり残したい」という観測でした。

ロッテの次男・重光昭夫さんは、日本ではたまに千葉マリンにご来場される皇族キャラみたいにしかファンのイメージはありませんが、拠点の韓国ではゴリゴリのM&Aスペシャリストとして韓国ロッテグループのグローバル化&急成長させてきた定評があります。当然サントリーの事例は念頭にあるはずで、経営のオープン化と海外展開を視野には入れつつも、一方で自らが継承する創業家の支配は、しっかり残したい意向だからこそ、「親子逆転上場」という方針ではないのでしょうか。

西武の事件…東証は弊害を指摘済み


どちらがいい、悪いかはなんとも言えませんが、「親子逆転上場」はコーポレートガバナンス的に不透明な部分を中枢に残すだけに、時には歪さが表面化することもあります。有名なところでは、それこそ次男さんの野球界のオーナー仲間であった堤義明さんところの西武グループですね。かつて西武グループは、非上場のコクドという会社が、上場していた西武鉄道を支配していましたが、コクドが西武鉄道保有株を実体より少なく申告していたことが発覚して、のちに堤さんは失脚→証取法違反で起訴・有罪判決、となったことは、ご記憶の方もいらっしゃると思います。

東証もこの一件があったからでしょうか。2007年6月に当時の斉藤惇社長の名前で「親会社を有する会社の上場に対する当取引所の考え方」を、各上場企業あてに通知しております。そこには、子会社のみの上場について「独自の弊害がある」と指摘しておりまして、具体的にはこんな感じだそうです。

「例えば、親会社と子会社の他の株主の間には潜在的な利益相反の関係があると考えられますので、親会社により不利な事業調整や不利な条件による取引等を強いられる、資金需要のある親会社が子会社から調達資金を吸い上げる、上場後短期間で非公開化するなど、子会社の株主の権利や利益を損なう企業行動がとられるおそれが指摘されています」(東証上場第11号 平成19年6月25日 「親会社を有する会社の上場に対する当取引所の考え方」)

市場の公平性から考えて、長男サイドが主張するHD上場の方が“正論”のようにも見えますが、まずは日曜の臨時株主総会で従業員持株会がどのような判断を下すのか。実際のところ、長男サイドの逆転は簡単ではないと予想されていますが、激しく傍観してみようと思います。ではでは。 <関連記事(個人ブログ)>
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新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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