「消費電力右肩あがり」の神話が崩壊してきている

日本卸電力取引所の電力スポット価格が低迷してきています。卸電力は、電力自由化を踏まえて2004年に取引所が開設され取引量も年々増えてきていますが、このところ価格が低迷しています。日経の記事では、原油安に伴って燃料コストが下がったことを反映したものとしていますが、果たしてそうなのでしょうか。
電力スポット価格低迷 電気料金引き下げ拍車も :日本経済新聞


卸取引所を介して売買される電力は全体の2%程度に過ぎず、また卸電力といってもわかりづらいのですが、電力調達コストの基準になってきます。もし取引所で安く電力を調達できれば、安く電力を売ることも可能です。

その価格が下がってきたのは、もちろん原油安の影響があったとしても、匿名による入札の取引なので、買い手の需要が売り手の供給力を上回れば、発電コストにかかわらず価格はあがり、逆に売り手の供給力が買い手の需要を上回れば価格は下がります。

実際、東日本大震災で原発が停止以降はスポット価格は上昇していました。しかし昨年から激しい価格下落がはじまっています。

JEPXスポット取引結果年間平均値|新電力(PPS、特定規模電気事業者)一覧|エネルギー情報局

電力消費量が減ってきている。需要が細ってきた、そう考えるのが自然です。実際に電力10社の電力販売実績のグラフですが、やはり大口の産業用「特定規模」も、家庭や小規模向けの「電灯・電力」も右肩下がりです。

電力需要実績 2015年度 - 電力データ | 電気事業連合会

電力需要は減少してきています。供給のほうは太陽光などの自然エネルギーによる発電量が増え、今や電力は供給過剰の状況にあると考えるのが自然でしょう。

自然エネルギーポータルサイト | 自然エネルギー財団

現実を見ると、もう消費電力が右肩あがりに増え続けるという神話は完全に崩壊しています。しかし、面白いことに、電力事業者はいまだに電力需要は右肩あがりに増えていくという絵を描いているのです。電事連のホームページの「日本の電力消費」の頭にはこう書かれています。

日本の電力消費量は、戦後、ほぼ一貫して伸びてきました。さらに近年は、情報化の進展やエアコンの普及にみられるような快適な生活へのニーズが高まり、経済が安定成長期に入ったといわれながらも、電力需要は衰えをみせていません。また需要の増加にともなって新たな問題もでてきました。電力消費の現在と、将来について考えます。

そして、「増え続ける電力需要」「家庭を中心に増え続ける電力消費」「日本の電力消費の山と谷」と見出しが続きます。しかし現実とはずいぶん違います。もはや高度成長期でもあるまいし、また家電の省電力化が進んできたなかで、いつまで電力需要が右肩あがりだと言い続けるのでしょうか。
日本の電力消費 - 電力事情について | 電気事業連合会

供給力が需要を上回るなかで4月から新たな「電力自由化」がスタートします。「電力会社」と「新規参入企業」、地域の枠を超えた「電力会社」と「電力会社」、「電力会社」対「ガス会社」などが入り組んだ電力競争時代にはいっていきます。それは激しい価格競争を引き起こす可能性が高いということです。
東京ガス、衝撃の安値で挑む電力自由化「総力戦」 :日本経済新聞

そんななかで、政府と電力会社は原発再稼動を進めようとしていますが、それは日本にとって吉とでるのか、はたまた凶とでるのでしょうか。

電力需要に見合う供給力は日本にはすでに十分あり、原発は、エネルギーをできるだけ輸入に頼らないようにしたいという建前と、電力会社が発電コストを下げたいという本音だけの問題になってきそうです。