保育バウチャーって何?

保育園をめぐる論議が、にわかに盛んになってきました。でも「私が保育園に落ちた母親だ!」などといって国会前でデモしても意味がありません。これは補助金を増やせば解決する問題ではないからです。


図のように、東京都世田谷区の保育所の入園率は47.2%と全国最低で、待機児童は1109人もいますが、社民党の保坂区長は「区にできることは限界がある」といって何もしないので、入園率はどんどん下がっています。

一つの原因は、世田谷区の人口が急増しているのに保育園が増えないからですが、最大の問題は制度です。保育園が社会福祉法人という特殊なしくみで運営され、経費の90%を国と都と区からの補助金でまかなっているからです。

このため公立の保育園の保育料は、私立の「無認可保育所」にくらべて年間40万円ぐらい安いといわれています。そして入園の審査は「妻が働いているかどうか」といったポイント制で行なわれますが、納税額が最大のポイントです。

このため、所得を100%捕捉されているサラリーマンが落選し、あまり税金を払っていない個人事業主が当選します。しかも保育料も納税額に応じて決まるので、上の図のように2倍以上も違います。

これは保育園が厚生労働省の管轄で、貧しい共働きの母親の子を預かる「託児所」としてでき、施設を社会主義的に割り当てているためです。同じように幼児教育をしている幼稚園は文部科学省の管轄でこういう割り当てはないので、希望する子供はどこかの幼稚園に入れます。

厚労省は「貧しい親のためには補助が必要だ」といいますが、保育園に落選した子供の多くは無認可保育所に入り、年間40万円以上も高い保育料を払い、設備も劣悪です。本来はこういう私立の保育園にも補助が必要ですが、世田谷区は株式会社の参入をほとんど認めません。

このように保育園が社会主義で運営されていることが、最大の問題です。幼稚園一元化して普通の料金制度にすべきだという議論も10年以上やっていますが、実現しません。2014年に「認定こども園」という制度ができましたが、これは保育所の変種で、問題は解決していません。

こんな時代錯誤の制度が残っているのは、官僚の天下り先になっている社会福祉法人が、役所と談合して株式会社の参入を阻止しているからです。保育園には競争がないので、園長の仕事は役所と仲よくして補助金をもらってくることで、子供の教育はほったらかしです。

こういう不公平な制度をやめ、保育園も幼稚園も自由につくらせ、一定の基準を満たす施設に子供を預ける親には保育バウチャー(クーポン)を出せばいいのです。保育園に補助金を出すのではなく親に出し、親は自由に保育園を選べるようにするのです。

教育バウチャーは50年以上前にミルトン・フリードマンが提案した制度で、アメリカの一部の州では実施されていますが、公立と私立の競争が激しくなるので、公立学校の労働組合が反対しています。

こうした「直接補助方式」の導入は、2006年に規制改革・民間開放推進会議の第3次答申でも提案されましたが、厚労省は無視しています。彼らが反対する理由は「親は教育の質を判断できないので、商業主義がはびこる」とか「受験目当ての詰め込み教育になる」というものです。

それなら、親が教育内容を理解できて受験戦争の心配のない保育園ならいいでしょう。イギリスでは、労働党政権が保育バウチャーを導入しました。日本の野党も「補助金ふやせ」などというデモをやるより、保育園への自由参入を認めて補助をバウチャーに切り替えるよう提案すべきです。