英インディペンデント紙が電子版オンリーへ・上 --- 小林 恭子


(「新聞協会報」2月23日号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

英紙インディペンデントの紙版が3月末、姿を消すことになった。電子版に完全移行する。全国紙では初めてだ。ネットでニュースを見る習慣が広がる中、「紙の新聞の終えん」がいよいよ現実化したと受け止められた。

記者による創刊をはじめ英新聞界の革新を担ってきた同紙は、電子版だけで成功する初の全国紙になれるか。

メディア環境の大きな変化

「紙に印刷されたニュースにお金を払う人の数が少ないことに尽きる」ーー同紙のアモル・ラジャン編集長(写真右、プレスガゼットより)は読者に対し、電子版オンリーに移行する理由をこう説明した。

平日発行のインディペンデントは3月26日、日曜紙インディペンデント・オン・サンデーの紙版は3月20日の発行が最後になる。

2013年、29歳で編集長職に就いたラジャン氏は「就任初日から、いつかこんな日が来るのではないかと思っていた」と保守系週刊誌「スペクテーター」に書いた(2月18日付)。「それでも、実際にそうなると、大きな衝撃だった」。

インディペンデントの紙版廃止の背景には、メディア環境の激変が大きい。

英ABC協会の調べによると、新聞の発行部数は10年前には約1200万部に上ったものの、現在は700万部と約半分に減少した。新聞専門サイトのプレスガゼットによると、この間、約300の地方紙が廃刊となった。広告も紙からオンラインに移っている。2010年比で、全国紙の広告収入は3分の1に落ち込んだ。

各紙は紙からの収入減を電子版から補えないジレンマを抱える。損失を抱えたり、利益を減らしたりしながら、デジタルへの投資を続けてきた。

インディペンデント紙による電子版への完全移行の決断は、影響力が大きい全国紙が紙媒体を手放した意味で、メディアの激変時代を象徴する動きといえよう。

加えて同紙に特有の理由として、(1)有力新聞だが所有者が数回交代し、安定した経営に恵まれなかった、(2)電子版への十分な投資が行われず、新聞全体のプレゼンス低下につながったーーの2つが挙げられる。

ちなみに、2015年12月時点でのインディぺデントの発行部数は約5万6000部。簡易版「i(アイ)」は28万部。インディペンデントの日曜版は9万2000部だ。

完全電子版成功の鍵は、前年比33%増の訪問者数(日間ユニークユーザー数は280万人)をてこにどこまで存在感を広げられるかにかかっている。テクノロジーやジャーナリズムへの投資が道を分けそうだ。

電子版への完全移行で、インディペンデント紙の従業員150人のうち、100人前後が職を失うもよう。25人が新規に雇用される。

地方紙グループのジョンストン・プレス社に売却されるiは、紙版を維持する。編集スタッフは35人増の51人になるという。

i紙のコンテンツは独自の記事に加え、インディペンデント紙や、同じESIメディア社の傘下にある無料紙ロンドン・イブニング・スタンダード、ジョンストン・プレス傘下の地方紙が提供する。

>>下に続く



在英ジャーナリスト 小林恭子


編集部より;この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2016年3月7日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。