3月4日、厚生労働省は、2016年4月スタートの診療報酬改定を告示しました。
診療報酬とは、医療機関及び薬局が保険医療サービスに対する対価として受け取る報酬、分かりやすく言えば「保険診療の料金」です。全ての技術・サービスが1点10円で点数化されており、それをもとに額が決まる仕組みになっています。
この診療報酬は2年に一度改定が行われていますが、保健医療サービスの点数変更は医療機関の収入に直接的に影響しますので、病院等の経営に大きなインパクトを与えます。また、それだけでなく国全体の医療費をも左右するものですので、報道でも大きく取り上げられています。
今回は、診療・調剤がプラス0.49%、薬価がマイナス1.33%で合計マイナス0.84%となりました。また、在宅医療を前提にした「かかりつけ医」が患者の健康増進や薬を減らすという方向性も打ち出され、医療費を抑制しようという姿勢が見えます。
「かかりつけ医」という言葉は、近頃よく耳にするのではないでしょうか。患者が健康保険証1枚でどの医療機関でも受診できるという「フリーアクセス」の見直しとの関係でよくニュースになっています。
大学病院等の大病院に軽症の人が集まると、専門的な医療に時間を割けなくなり、限りある医療資源の有効活用が難しくなります。そのため、専門的な医療が必要かどうかの判断を、かかりつけ医にしてもらおうというのが厚労省の方針なのです。
このような流れを受けて、2016年4月からは、かかりつけ医などの紹介なしに大学病院等で診療・手術を受ける場合には患者負担が初診でプラス5000円以上、再診でプラス2500円以上の割増になります。
また、「かかりつけ薬局・薬剤師」の制度もスタートします。現状では、医師にかかるたびに診療所や病院の近くにある「門前薬局」でそれぞれ薬を処方されていますが、患者が特定の「かかりつけ薬局」で全ての医療機関の薬の処方を受けるように誘導し、薬の重複を防いだり、飲み合わせをチェックしたりすることで薬剤費の伸びを抑え服薬事故なども減らそうというものです。
このような医療費の削減、医療資源の有効活用といった取り組みには賛成です。
しかし、日本の医療制度は、医療機関側が利益を上げようとすればできるだけ点数を高くするため不必要な行為を行ったり大量の薬を処方したりして、患者及び国民全体への負担が大きくなるという構造的な問題があります。そこには、十分な対策が講じられていません。
たとえば、イギリスでは、QOF(Quality and Outcomes Framework)という制度があり 、診療所に決まった数の住民を担当させ、そこの住民の健康促進を実現させれば診療所にボーナスポイントが加算される仕組みとなっています。
どうしたら限られた予算の中で効果的な治療が行われるのかを検討するに当たっては、このような治療成果を上げた医師に対し金銭的インセンティブを与えること、すなわちP4P“Pay for performance”(業績連動型報酬)は非常に参考になると思います。
財政健全化と医療サービスの質の向上を両立させるためには、診療報酬改定の際にその姿勢を示し続けること、そして諸外国の取組みからも学んでいくことが重要です。
編集部より:この記事は、タリーズコーヒージャパン創業者、参議院議員の松田公太氏(日本を元気にする会代表)のオフィシャルブログ 2016年3月8日の記事を転載させていただきました(写真は写真ACより、アゴラ編集部)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は松田公太オフィシャルブログをご覧ください。
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