【映画評】幸せをつかむ歌

渡 まち子

夢だったロックスターへの道のため、家族を捨てたリッキー。54歳の今もロックミュージシャンとして熱い魂を抱いて、売れないバンドと共にロサンゼルスの小さなライブハウスで歌い、演奏する日々を送っている。そんなある日、別れた夫から、結婚した娘のジュリーが夫に捨てられたと連絡が入る。あわてて20年ぶりに家族のもとに戻ったリッキーだが、母親らしいことは何ひとつできず、ジュリーや息子たちとの溝は深まるばかり。それでもリッキーは、疎遠になっていた娘との関係を何とか修復しようと奮闘するが…。

自分の夢のため家族を捨てたヒロインが再び娘との絆を取り戻そうとする人間ドラマ「幸せをつかむ歌」。名女優メリル・ストリープが演技が上手いのは周知だし、歌が上手いのも実証済。しかしなんとギター演奏までできるとは!冒頭から、ストリープの熱く強いサウンドのギターが鳴り響くが、この映画のためにニール・ヤングからギターの指導を受け、猛特訓の末に習得したギターテクニックだというから、その役者魂に改めて頭が下がる。そんな本物の演奏シーンに象徴されるように、本作は、家族の物語であると共に、決して大スターではないけれど、年齢を重ねても音楽への情熱を持ち続ける愛すべきミュージシャンを描いた音楽映画でもあるのだ。

リッキーは母親としては失格で、それは本人もわかっている。それでも彼女は、自分ができる精一杯のことで、娘を不幸から救おうと頑張る。この奮闘が彼女らしくて実にいい。知的で美しい黒人女性と再婚し大邸宅で暮らしている夫、息子の一人はゲイで、もう一人は結婚することを母親に内緒にしている。そんな家族の中でリッキーができることは、歌うことだ。ユルい邦題がついているが、原題は「リッキーとザ・フラッシュ」。リッキーがリードボーカルを務めるバンドの名前で、そのタイトルがクライマックスに腑に落ちる。グラミー賞受賞のリック・スプリングフィールドが演技と歌を披露し、メリルの実娘メイミー・ガマー(そっくり!)が娘役で母娘共演を果たしている。妻や母としてではなく、何よりも自分らしく生きるヒロインの姿に励まされた。
【65点】
(原題「RICKI AND THE FLASH」)
(アメリカ/ジョナサン・デミ監督/メリル・ストリープ、ケヴィン・クライン、メイミー・ガマー、他)
(音楽愛度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。