世界が壊れていくようなニュースが内外から続く --- 八幡 和郎

このままでは世界は壊れてしまうと憂鬱になるようなニュースが、昨日、今日と内外で続いている。保守派からの攻撃も、左派からの逆噴射も両方あるが、合い言葉は破壊だ。

①ハワイなどの大統領選挙予備選で共和党幹部の猛非難をかわしてトランプが勝利、ミシガンでは世論調査では15%も優位だったのにもかかわらずクリントンがサンダースに敗北。

②日本では大津地裁がユニークな原発運転差し止めの売名好意的判決を出すが運転停止に伴う莫大なコストは誰が負担するのか。これで、予定されていた夏の料金引き下げはチャラか。

③イギリスではEUからの無謀な離脱が現実味。

④ポーランドでは憲法裁判所の改革法に対して憲法裁判所は違憲判断を示すが政府は従わない。

⑤フランスでは雇用創出に不可欠と各国から要求され政府が提案している雇用改革法に反対のデモが五月革命の再現を予兆させる勢いで広まる。

⑥北朝鮮では金正恩が逆噴射気味に核攻撃の準備を指示し粛清も続く。

⑦国連の委員会は慰安婦問題でのせっかくの日韓合意にいったもんをつけ日本の皇位継承にまで介入の構え。

⑧トルコは報道機関を片っ端から国の統制下に。

⑨スペインでは極左政党ポデモスが大暴れして総選挙から何ヶ月たっても政府が成立しないし、調停を期待できるはずの国王は妹夫婦のスキャンダルで動けず。

⑩イギリスではウィリアム王子夫妻の勝手気ままなマイホーム主義に批判が高まっており、家庭人としての良き夫路線の破綻はどこかの国と同じ。

こうなったひとつの原因は、自由化と国際化に伴う世界的な富の一部の人への偏在や多国籍企業の納税回避への有効な対策を怠ったことだ。いくらなんでも極端すぎる。たしかに、個々の国としては、国際競争に勝つためには、自由化して、労働条件が悪くなったりするのはいたしかたない面もあるのだが、そのかわりに、国際的な協力を強化してダンピング的競争に歯止めを掛ける必要がある。それができていないのである。それでもヨーロッパではそれなりに行動が始まっているが、アジアではそれも遅れている。とくに韓国、香港、シンガポールなど問題だ。福島瑞穂氏など慰安婦問題で韓国と共闘するより韓国の低すぎる法人税を上げさせる運動をしてこそ左派の使命のはず。

もうひとつは、多元的民主主義の破壊だ。多元的民主主義は各プレーヤーが法で定められている権限を最大限に行使するのでなく分に応じて自制しなくては破壊される。たとえば、日本の政治は参議院で多数を占めた小沢一郎民主党が参議院の同意権などを行使して日銀総裁の人事を気に入る名前が出るまで拒否を繰り返すとか(同意権はよほど困る人事を拒否するに留めるのが本来の趣旨だ)、政策運営が麻痺しても政府を倒すこと優先で法案を通さなかったので「ねじれ国会」で日本は停滞した。そして、自分が政権取ったら自民党に控えめに真似されて自滅。いま新民主党(?)は同じ黒幕のもとで参議院選挙で、政権構想ももたないままで共産党を入れての選挙協力をして、かつてと同じ破壊行為をめざしているようだ。

放送の中立性をめぐる議論も高市総務相も言い過ぎだが一部メディアや電波独占評論家の「中立性は精神規定にすぎない」というのも極端すぎてひどい。電波は少数の、しかも、同じ傾向のマフィアに何十年も独占されている。その既得権を守るのが言論の自由の擁護でもあるまい。

いずれにせよ、昨今の状況は中庸の精神を完全に失った結果だ。このままでは、世界は第二次世界大戦直前の混乱と蟻地獄を再現しかねない。まずその危機感を享有したい。


八幡和郎  評論家・歴史作家。徳島文理大学大学院教授。
滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年通商産業省入省。入省後官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。通産省大臣官房法令審査委員、通商政策局北西アジア課長、官房情報管理課長などを歴任し、1997年退官。2004年より徳島文理大学大学院教授。著書に『歴代総理の通信簿』(PHP文庫)『地方維新vs.土着権力 〈47都道府県〉政治地図』(文春新書)『吉田松陰名言集 思えば得るあり学べば為すあり』(宝島SUGOI文庫)など多数。


編集部より;この原稿は八幡和郎氏のFacebook投稿にご本人が加筆、アゴラに寄稿いただました。心より御礼申し上げます。