日本には非正規社員化すべき重要職場が残っている

北村 隆司

▲日本のメディア人は北朝鮮並みの“特権階級” !?


 

日本では経済危機を迎える度に非正規雇用の比率が増加する傾向が著しく、「雇用の構造に関する実態調査」の最近版によると2015年には非正規社員の率が4割台を記録したと言う。

この傾向は日本独特の現象で、解雇規制が緩く正規と非正規の格差が少ない欧米諸国では余り見られない。

非正規はその本人が辛いだけでなく、労働時間が短いため、社会保険や労働保険の適用から外れる者が多く、今でも苦しい社会保障の水準維持が更に困難になり、住宅・自動車ローンなどの調達困難者が増大し、金融緩和の効果も薄めるなど一般社会に与える負担も馬鹿に出来ない。

この問題の解決には「非正規雇用への規制強化ではなく、正規雇用の利益を享受する労使双方の既得権益にメスを入れるべきである」と言う池田信夫博士等の主張は、日本では少数派でも国際的にはOECDの指摘とも軌を一にした多数派の主張である。

阪大の大竹文雄教授は池田博士の主張に賛同する一方「日本的非正規雇用を社会が容認している以上、企業や組合がこれを利用する事は合理的である」と日本の世相の特殊性を指摘しているが、この世相の違いは国の価値観や慣習に大きな影響を与える重要問題である。

この様な世相の違いは何故生まれたのだろうか?

筆者は、欧米では国の制度や世相の形成に大きな影響力を持つ幹部公務員(日本で言うキャリア)やジャーナリストの殆んどを「非正規雇用者」が占めているのに対し、日本の幹部公務員やジャーナリストは手厚い身分保証を受けて居る事がその一因であると考えている。

英米では多くの場合、試験を受けて採用される公務員は幹部職ではなくある程度身分を保証される代りに国のあり方への影響力は限りなくゼロに近いが、個人の識見と判断力を要する幹部職の殆んど全てが、契約職員か雇用者と被雇用者が夫々の能力と相互信頼に頼るEmployment at willである。

その為もあり、日本の幹部公務員の様に身分保障が無ければ萎縮するとか長期的思考が出来ない等と言おうものなら、「安定を第一にするなら公務員試験を受けて一般公務員になれ」と突き放されるのがおちである。

国のあり方や世相の形成に大きな影響力を持つ代表的な職業には、ジャーナリスト(記者、キャスター、アンカーマン、アナウンサー、プロデユーサーなど)があるが、日本のメディアのサラリーマン化は目を覆うが如き惨状で、既得権を振り回して我が物顔に特権を享受している事は国民の誰もが知る処である。

組織に雇われ特別待遇を受けている点では、冒頭の写真に掲げた、金日成時代から3代の政権にわたって重大放送を担当している北朝鮮の女性アナウンサー李春姫と共通しており、日本の大報道機関に属するジャーナリストが自由と独立の名に値するか否かは甚だ疑問である。

「独立自尊」を掲げる米国憲法に感銘した福澤諭吉が、「独立の気力のない者は必ず人に依頼する。人に依頼する者は必ず人を恐れる。人を恐れるものは必ず人にへつらう。そして人にへつらうことによって、時に悪事をなすことになる。独立心の欠如が結果として、不自由と不平等を生み出す」と言う名言を残したのは、何々付きなどと称して、有力政治家や官庁に取材源を頼る日本のマスコミの堕落を予期した警鐘であったのかも知れない。

費用対効果を中心に論議されてきた日本の非正規問題だが、大竹教授の言われる様に「非正規雇用を社会が容認している」現状は問題である。

この社会的通念を変える近道は、人事行政に広汎な権限を持ちその権限は内閣から独立して行使出来る「人事院」と、幹部国家公務員試験を廃止し、キャリアは欧米と同様の非正規職に転換する事である。

と同時に、広い意味でのジャーナリストもサラリーマン身分から外し、芸能人やプロスポーツ選手と同じ様に非正規に転換する事が本当の意味での独立自尊を旨としたジャーナリズムを後押しする筈だ。

国家の危機より自己保身と組織の存続を優先する官僚化した将官に率いられた第二次世界大戦時の日本軍は「日本の兵は世界最高、日本の将は世界最低」と海外から評されたが、現在の日本の指導階級の姿も同様である。

このまま、指導的職域を保護し続けると、

1. 能力主義の階層社会では、人間は能力の極限まで出世する。したがって、有能な平(ひら)構成員は、無能な中間管理職になる。

2. 時が経つにつれて、人間はみな出世していく。無能な平構成員は、そのまま平構成員の地位に落ち着く。また、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は、無能な人間で埋め尽くされる。

3. その組織の仕事は、まだ出世の余地のある人間によって遂行される。

と言うピーターの法則 が支配する国になって仕舞う。(ウイキピーターの法則参照)

これをを逃れる手段としては、先ず国のあり方や世相の形成に大きな影響力を発揮する職種から、これまでの雇用者や経験に裏打ちされた能力によって選ばれ、ある時点で不適当さが見られれば、契約を更新しないことで無能は解消される非正規社員制度の採用を実行する事である。

こうして見て来ると、日本には非正規化すべき重要職場がまだまだ残されており、日本の構造改革は未だ著に付いたばかりとしか言い様がない。