なぜ「民進党」には誰も期待しないのか

池田 信夫

民主党と維新の党の合流した「民進党」ほど、最初から期待されない新党も珍しい。NHKの世論調査では、次の図のように「大いに期待する」はわずか4%、「ある程度期待する」を合計しても25%と、安倍内閣支持率の半分である。


この原因として多くの人があげるのは、民主党政権の大失敗だが、民進党の執行部はその失敗に何も学んでいないようにみえる。それは党名の候補として最後まで残ったのが、「立憲民主党」だったことが示している。

「立憲主義を守れ」とか「集団的自衛権は憲法違反だ」などという争点で、選挙が戦えると思っているのか。彼らがそういう中身のないスローガンしか出せないのは、ほかに一致できる点がないからだろう。

安全保障なんて、いくら朝日新聞が大キャンペーンを張っても、国民は関心をもっていない。安保改正が国をあげての大問題になり、岸信介が退陣したあとの1960年の総選挙でも、自民党は300議席とった。「所得倍増」を掲げた池田勇人が、安保を争点にした「革新陣営」を圧倒したのだ。今年の安保法制も、いくら日当を出して学生にデモをやらせても、お笑いネタにしかならない。

要するに、アジェンダ設定が間違っているのだ。国民が関心をもっているのは、もっと具体的で切実なな問題だ。待機児童の問題は、「日本死ね」という匿名ブログから国会に広がり、安倍首相も対策を約束せざるをえなくなった。1000万人の老人に3万円ずつ配るのに、待機児童には何もしない政治への怒りがあったからだ。

もう一つの問題は財政だ。安倍政権は、スティグリッツまで使って10%への増税を先送りしようとしている。これは選挙権のない子供(未来の納税者)に負担を強いる政策だ。2014年末の解散のときも安倍首相はこれを争点にしようとしたが、野党はどこも反対しなかった。

自民党は、投票者の過半数を占める年金生活者に奉仕する老人の党である。それに対して野党は、彼らの社会保障コストを負担する納税者の党として戦うべきだ。それは今は数の上では少ないが、未来の納税者の数は老人よりはるかに多い。

これを「シルバー民主主義」などといってあきらめるのは、敗北主義だ。匿名ブログが政権を動かしたように、「資産の6割をもつ老人をますます豊かにするアンフェアな政治」を批判すれば、戦う方法はある。

この夏も、安倍政権は増税先送りを争点にしてダブル選挙を仕掛けてくるだろう。そのとき民進党が沈黙し、共産党と一緒に「憲法を守れ」などとデモをしたら、壊滅的に惨敗するだろう。おそらくそれしか、野党が立ち直る道はないと思う。

*今夜8時から「オフレコ政経ゼミ」で、「民進党」をテーマにしてSkypeでオンライン会議をやります。