バチカンのクルーニーの“悩み”

長谷川 良

ローマ・カトリック教会の前ローマ法王べネディクト16世の個人秘書であり、フランシスコ法王の秘書(法王公邸管理部室長)を務めるゲオルグ・ゲンスヴァイン(Georg Ganswein)大司教(59)は高齢者が多いバチカンの中でまだ若く、ハンサムな外貌からバチカンの“ジョージ・クルーニー”ないしは、“ヒュー・グランド”と呼ばれ、多数のファン・クラブが出来ているほどだ。


▲バチカンのジョージ・クルーニーを報じるオーストリアのクリア紙(2012年6月5日)

そのバチカンのクルーニー、ドイツ出身のゲンスヴァイン大司教は先日、ドイチェ・ヴェレとのインタビューに応じている。そこで母国ドイツ教会の状況について、「教会の会計は豊かだが、教会内は益々空席が広がってきた」と述べた。金は十分だが、信者は年々少なくなってきた、日曜礼拝には空席が目立つ、というわけだ。通常の企業だったら、人は少ないが、金は十分だといえば、満足せざるを得ない結果だが、教会は営利団体ではない、金がなくても教会は信者で溢れている、と言った状況こそ願わしいからだ。

バチカンのクルーニーの嘆きにもう少し耳を傾けてみよう。
「教会は信仰を鼓舞しなければならない。“コーラ・ライト”のように、“信仰ライト”であってはならない。ドイツ人の信仰には正しい栄養素が必要だ」と説明する。

同大司教はドイツ教会で頭を痛めている点は学校での宗教授業だ。「学校を終了した若者たちは自身の宗教が何かをまったく理解していないのだ」と嘆く。

ドイツではカトリック教会は依然、最大宗派でその数は約2400万人で全人口の29.5%を占める。次いでプロテスタント系教会(新教)が約2260万人で全体の27.9%だ。
ちなみに、独カトリック教会司教会議が昨年7月17日ボンで公表した「2014年統計」(Jahresstatistik)によると、2014年に21万7716人が教会から脱会した。2013年は17万8805人だったから、前年比で20%以上急増だ。15年の教会統計はまだ公表されていないが、教会脱会者の増加傾向は続いているとみられる。

今月13日、南米出身のローマ法王フランシスコの就任3年が過ぎた。同大司教はフランシスコ法王就任後の教会の変化について、「教会は決して遊園地のペダル・ボートではない。大きな船だ。だから急速な軌道修正が行われたとしても沈没する危険性はない」と強調、「フランシスコ法王の言動は非常に明確だ。バチカン内ではフランシスコ法王の路線に反対する勢力はいないが、法王の言動が迅速であり、急速だから、それについていくのが難しい聖職者がいることは事実だ」と説明している。

昨年10月の世界代表司教会議(シノドス)でも大きなテーマとなった再婚者・離婚者への聖体拝領問題については、大司教は、「私が理解する限りでは、フランシスコ法王は前法王の路線と同様だろう。すなわち、カトリック教義に基づくものだ」と述べ、離婚、再婚者を認めないカトリック教義に変更がないことを示唆している。

ドイツでは昨年100万人を超える難民・移民が殺到。それに呼応するように国内で外国人・難民排斥の機運が高まっている。難民収容所襲撃や放火事件が絶えない。

その主因について、ザクセン州のゲルリッツ教区のヴォルフガング・イポルト司教は、「旧東独国民の多くは非キリスト教の教育を受けてきた。彼らは今、自由を享受できる環境圏で生きているが、困窮から逃げてきた難民に対しては排他的な行動に出ている。キリスト教的価値観が欠如している」と主張し、バチカンのクルーニーの悩みを裏付けている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。