ウィーンで6日、「2015年反ユダヤ主義報告書」(Antisemitismusbericht)が公表された。ウィーンの「イスラエル文化センター」(IKG)のオスカー・ドイチユ会長は、「イスラム過激主義を背景とする反ユダヤ主義言動が増加するとともに、ユダヤ人への脅迫や中傷誹謗が増えている」と述べた。同時に、反ユダヤ主義の定義を明確化する一方、移民への統合対策の促進を要求した。


▲2015年10月20日、フォアアールベルク州のユダヤ人墓地にナチスの記章(かぎ十字)の落書きがあった=「FgA」のHPから

オーストリアのクルツ外相は、「反ユダヤ主義報告書は深刻な警告を発している。わが国では反ユダヤ主義の存在を許してはならない。ユダヤ人の安全が保障され、彼らがわが国で安心して生きられるようにすることがわが国の課題だ。特に、ユダヤ人が脅威を感じるイスラム過激派の反ユダヤ主義に対してわが国は闘わなければならない」というコメントを明らかにしている。

「反ユダヤ主義報告書」は「反ユダヤ主義と戦うフォーラム」(Forum gegen Antisemitismus =FgA)が作成したもの。フォーラムのアンバー・ヴァインバーさんは、「われわれは反ユダヤ主義的言動を報告する拠点であると同時に、犠牲者をケアする場所だ」と説明。ドイチュ会長によると、同フォーラムはIKGが主導して運営されているが、独立機関という。

同フォーラムによると、2015年に報告された反ユダヤ主義的言動件数は465件で前年比(255件)で82%と急増している。ちなみに、2013年は137件に過ぎなかった。特に、インターネット上でユダヤ人に対する脅迫や中傷誹謗が急増している。ただし、具体的にユダヤ人を襲撃し、暴行する件数は減少。2014年は9件だったが、昨年は2件に過ぎなかった。その理由としては、ユダヤ教関連施設の警備強化が挙げられている。

反ユダヤ主義的言動としては、ユダヤ人墓の破壊行為、サッカー試合で反ユダヤ主義的暴動、ユダヤ人の子供たちが乗っているバスへ罵声を浴びせかけるなどさまざまだ。政治的な反ユダヤ主義的発言としては元自由党(FPO)議員の暴言が挙がられている。

ちなみに、イスラム過激派テロ事件が生じたフランスではここ数年、多数のユダヤ人家庭がイスラエルに移住している。シナゴーグやユダヤ系施設への襲撃が絶えない中、生命の危険を感じて移住していった。2014年1年間だけでもその数は7000人という。パリで昨年1月、ユダヤ系商店を襲撃したテロ事件が起きている。

同報告書を作成した関係者によると、反ユダヤ主義的犯行の思想的背景を明確に断言することは難しいという。極右過激派から極左過激派、そしてイスラム系グループまで様々だからだ。ただし、ここにきてイスラム教を背景とした反ユダヤ主義的言動が増加しているという。北アフリカ・中東からの難民・移民の殺到がイスラム系過激派の反ユダヤ主義的言動の増加原因と分析しているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。