独大学でイスラム用礼拝室の閉鎖

ドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)内では「国内のイスラム教寺院(モスク)内では説教者はドイツ語で話すべきだ」という声が高まってきている。“モスク内のドイツ語義務化”だ。


▲イスラム系学生の祈祷禁止を描いた独週刊誌「シュピーゲル」大学生版の表紙

それに対し、ドイツ最大の少数民族トルコ系グループ代表のGokay Sofuoglu議長は日刊紙「Neue Osnabrucker Zeitung」の中で、「モスク内での説教はドイツ語で行うべきという主張は宗教活動への干渉だ。カトリック教会ではラテン語が使用されているではないか。ドイツ基本法では宗教の自由が保証されている。特定の宗教に対して言語を強制することは明らかにそれに違反する」と主張し、CDUの提案を人気取り政策と一蹴している。

イスラム教のモスク一般に対し、国民の疑惑の目が注がれ出した。特に、イスラム派過激派テログループによる「パリ同時テロ」「ブリュッセル同時テロ」などを目撃した欧州では、イスラム教一般に対して批判的になってきている。

ドイツでは昨年、シリア、イラク、アフガニスタンなどから100万人を超える難民・移民が殺到し、難民歓迎政策を取ってきたメルケル首相への批判の声が国民の間で高まってきた。同時に、難民・移民への襲撃事件や放火事件が多発。特に、旧東独のザクセン・アンハルト州(州都マクデブルク)やザクセン州(州都ドレスデン)では外国人排斥犯罪が急増している。前者では14年94件が昨年335件に、後者では182件から509件とそれぞれ急増した。通称「イスラム・フォビア」(イスラム嫌悪)と呼ばれる社会現象が見られる。

ここにきてドイツの大学でイスラム系学生用の礼拝室を閉鎖する大学が出てきている。独週刊誌シュピーゲルの「大学シュピーゲル」最新号によると、ドルトムント工科大、デュースブルグ・エッセン大、ベルリン工科大(TU Berlin)ではイスラム系学生が使用してきた礼拝室を閉鎖、ないしは閉鎖予定だ。その理由としては、改築予定、「ドイツは政治と宗教を分離している」、「イスラム系学生にとって祈祷する場所は大学周辺にもあるから、大学内に礼拝室を置く必要がない」などさまざまだが、その背後には、大学内のイスラム系学生用礼拝室がイスラム過激派に利用されるのではないか、といった警戒心がある(イスラム教徒は一日、5回、メッカのカアバ神殿の方向に向かって礼拝(サラ―ㇳ)する義務がある)。

ちなみに、ドイツの大学が過去、イスラム過激派の拠点として利用されたことはある。米国内多発テロ事件(2001年9月11日)のテロ実行犯の一人、Mohammed Attaはハンブルク=ハーブルク工科大を会合の場所として利用していた。また、ダルムシュタット工科大の学生がイスラム過激テロ組織「イスラム国」を宣伝していた、として最近逮捕されている。アルカイダの指導者ウサマ・ビン・ラディンのボディーガードだったイスラム過激主義者Sami・Aはボーフム専門大学に通い、学内の礼拝室で扇動活動していた、といった具合だ。

ドイツの隣国オーストリアでもモスクへの監視強化を要求する声が聞かれる。リベラルなイスラム教を提唱し、イスラム教徒に西欧社会への統合を訴えるオーストリアのイスラム教問題専門家アミール・ベアティ氏は「モスク内で西欧社会への憎悪を爆発させるイスラム指導者が少なくない。モスクがイスラム教過激派の拠点となっている。モスクで説教できる指導者はアラブ・イスラム教国から派遣されたイスラム教指導者ではなく、西欧社会で教育を受けたイスラム教指導者が担当すべきだ」と主張しているほどだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年4月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。