アップルペイ「黒船日本来襲」で、ガラケーが危ない

情報サイト9 to Mac は、「黒船」Apple Pay(アップルペイ)が近日中に日本に導入されると伝えています。ApplePayは携帯電話の概念を全く変えてしまう可能性を秘めています。日本のガラパゴス携帯はますます追い込まれそうです。

アップルペイって何?

Apple Payは、アップルのモバイル決済サービスのことです。既存のクレジット・デビットカードなどをiPhoneのアプリに登録しておけば、iPhoneを読み取り端末にかざすだけで店舗で支払いができるようになります。既に、アメリカ・イギリス・カナダ・中国・オーストラリアでサービスを開始し、今月19日にはシンガポールにも導入されました。

おサイフケータイとどこが違うの?

仕組みとしては、NTTドコモが12年前にi Modeに搭載したおサイフケータイに似ています。おサイフケータイは、コンビニや自動販売機、それにJR東日本のSuicaにも対応していて、世界初の成功例とされています。それでも、普及率はそれほど高くないです。私たちは、交通系(Suica)や流通系(Nanaco, WAON, EDY) のICカードって普通に持っていますよね。それを携帯電話に内蔵すればいろいろ便利なはずなのに、なんでそうしなかったのでしょうか?裏舞台では、波瀾万丈・権謀術数・死屍累々・群雄割拠の歴史物語があるのですが(それは物語として面白いのでまた後日)、ユーザー視点にみて大きく2つの問題があったからだと私は考えます。

「悪用が心配」

クレジットカードは財布の中にしまっておくものですが、携帯は結構どこかに置き忘れたりしますよね。職場や家の机の上。それに盗難・紛失してた悪用される心配がありますよね。また、お金にかかわる個人情報を携帯会社に教えてしまうのは何だか不安ですよね。会社によるデータ流失なんて話も聞きますし。

「面倒くさい」

何だか、申し込みや変更・解約に手間がかかって面倒だと思ってしまうのです。きっと銀行印とか住民票とかいるんだろうし。それに、例えば、モバイルSuicaを使うには普通のクレジットカードだと年会費がかかります。Viewカードに入ると無料になるのですが、わざわもう一枚作るのは面倒くさいですよね。

アップルペイは「安心」「便利」

アップルのティム・クックCEOは、Apple Payについてのインタビューで「決済を考える人々はビジネスモデルを組み立てるところにフォーカスする。しかし我々はユーザー体験にフォーカスした」。と語っているそうです。私なりに解釈すると、お客さんに「これはCool!」という感動体験を与えて、デメリットを減らすという戦略です。「お客さまの気持ちにたって考える」って当たり前と言えば当たり前なのですが、なかなかこれができないんですね、日本の会社は。特に電話とか交通といったインフラ系は元々役所ですから。

おサイフケータイが今ひとつ浸透しなかった根本的な原因はそこです。携帯・鉄道会社は本業で十分儲けているので、「派生事業」に大きなポテンシャルがあっても、死んでも実現するという切迫感はなかった。一方、これを事業の中核と考えるAppleは徹底的に顧客に寄り添います。

「安心」

皆が心配していた個人情報の拡散。Apple Payでは、この決済によって発生する取引情報をアップルも小売店も一切記録しません。これは潔い。顧客がいつどこで何を買ったか、なんていうビッグデータは、マーケティングに使いたくなりますよね。そういえば、JR東日本も、スイカの顧客データを加工して売ろうとして問題になりましたね。記録されなければ盗まれることもない。

もう一つの安心は、決済時にユーザーの指紋認証を求めるようにしたこと。これなら、携帯を盗まれても第三者の不正使用の確率は格段に下がります。

「簡単」

Apple Payではカードの登録は面倒くさい手続き一切不要。iTunesを使って入力するか、iPhoneに搭載されるiSightカメラでカードを撮影するだけ。複数のカードを登録することも可能です。

アップルペイが日本で普及すると何が起きるか

では、AppleはどうしてそこまでApplePayに入れこんでいるんでしょうか?

もちろん、金融決済では、クレジットカード会社から手数料を得ることができるので、新たに、金融事業の収入も手に入れられます。

でも、それだけではないと私は思います。これからモノのインターネット(IoT)の時代を迎えて、生活の中でスマホを使ってモノを動かしたり、借りたり、買い物をしたりする機会は増えていくと思われます。その「金融決済」を何でも「iPhone」で済ますことになれば、「インターネット上のデータのやりとり」に対して、支配的な立場を得られます。

iPhone自体の売り上げも増えるでしょう。でも、それ以上にAppleは、iPhoneを使ってする何か(例えばレンタカーのドアを開けたり、自動車を充電したり、飛行機に搭乗したり、電車にのったり、ホテルにチェックインしたり、スポーツクラブに入館したり)というビジネスに関わることができる。するとそのビジネスに関連するアプリがiOSに搭載されていくわけです。そこにポイントを付加したら、生活丸ごとポイントカードになります。Appleが主導して、ポイントカードを統一することも夢ではありません。

大げさにいえば、iPhoneは、生活のあらゆるシーンでモノと関わりを持つ時のゲートウエイになり、Appleが全ての商取引に関与できるようになる。

また、ビジネスの世界にも入り込んで来るでしょう。今のApple製品は個人使用が大半です。ビジネス用で使ってもらえれば、売り上げが伸びます。セールスマンが商談成立したらその場で決済できるようになったり、ある工場が別の会社の工場から部品を調達するときに、搬出するトラックの運転手が手持ちの端末で決済もできるし、生産・工程・販売管理のデバイスになる。大手企業のCEOのスマホに、現場のドライバーやコンビニでの売れ行きの決済情報がリアルタイムで反映されて、それを元に時々刻々の経営判断を下すことが可能になります。

このように「ハード」と「ソフト」と「金融取引」の3つを手中に収めることの意味は大きいのです。日本にもかつてアイデアはあったし、実際に「おサイフケータイ」という商品化まで果たしましたが、今は諸事情により停滞しています。ガラパゴス携帯の失敗は、我が国の製造業に打撃を与えましたが、いま狙われているのはサービス業です。

もちろん、まだApplePayが普及する保証はありません。そもそも日本はクレジットカルチャーでないこと、NTTドコモが開発したFeliCaという技術仕様とAppleのそれが異なること、交通系自動改札にはFeliCaが優位であること、などなど不確定要素はたくさんあります。

まだまだ日本勢にも巻き返しの機会はたくさんあります。ただ、新たな事業計画を立てる前にまず過去を振り返って、ここに至った経緯を謙虚に見つめ直しそこから教訓を学ばないとまた同じ過ちを繰り返すことになるでしょう。

Nick Sakai  ブログ ツイッター

ビジネスアナリスト
金融機関で在外勤務する傍ら、電気自動車、IoT(モノのインターネット) 等のイノベーションの実業化の動向を分析。ICT、エネルギー、経済・経営分野にも精通している。執筆やNPO活動を通し、イノベーション普及に向けた啓発にも取り組んでいる。