【映画評】ちはやふる 下の句

瑞沢高校で再会した幼馴染の太一とともに、競技かるた部を作った千早は、同じく幼馴染で自分にかるたの魅力と夢を持つことの大切さを教えてくれた新に再会したい一心で、全国大会に出場し、東京代表となる。他の部員たちと共に、懸命に練習に励んでいた千早だが、「もうかるたはやらん」と言う新の言葉にショックを受ける。そんなある日、千早は自分と同じ年ながら“最強のクイーン”と呼ばれる若宮詩暢の存在を知る。クイーンに勝ちたいという思いと新に会いたいという思いが混在し、千早の気持ちは詩暢の存在にとらわれ、次第にかるた部のメンバーから離れていってしまう…。

末次由紀の人気コミックを原作とし、競技かるたに青春をかける若者たちの群像劇を2部作で描く後編「ちはやふる 下の句」。前作「上の句」では、かるた部創設に伴い、部員の成長に寄り添いながら、競技かるたのルールや魅力を伝える作りになっていた。後編で完結編にあたる「下の句」では、いよいよ最強クイーンで、新とも交流がある詩暢が登場することで、より個々のキャラクターの性格やかるたへのそれぞれの思いが浮き彫りになっている。ただ、長い長い原作を2部作にまとめているので、どうしても魅力的なエピソードは抜け落ちているので、原作ファンの不満はやむをえない。それでも、あえて、原作に登場する脇キャラをばっさりと切り捨て、千早、太一、新、詩暢だけに絞ったのは、まとまりという意味では正解だろう(とはいえ、新と詩暢の背景は描き切れていないが)。

この物語は、直球すぎるほどストレートな青春物語だが、映画では恋愛要素はあえて控えめ。実はすこぶる過酷な競技であるかるたを、まるでスポ根もののように描いて面白さとスピード感を際立たせている。広瀬すずは演技は少々つたないが、そのまっすぐな視線が何より好印象だし、クイーン役の松岡茉優のクールなたたずまいも悪くない。男性キャラに魅力が乏しいのは残念だが“仲間と共に”というメッセージは、しっかりと伝わった。“ちはやふ(ぶ)る”とは荒々しいという意味だが、単に勢いが激しいだけではない。劇中に、高速回転するまっすぐな軸のこまは、まるで止まってるように見えながら、前後左右上下に偏りなく力が集中している状態のイメージだというせりふがある。このブレない姿勢が、かるたの美しさと重なった。

【60点】

(原題「ちはやふる 下の句」)

(日本/小泉徳宏監督/広瀬すず、野村周平、真剣佑、他)

(恋愛度:★★☆☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年4月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。