憲法改正の機運はあるのか?

憲法記念日ということもあり、安倍首相が狙う9条改正について考えてみたいと思います。

改憲派の根本思想は第二次大戦後、GHQが推し進めて決めた現在の憲法は「他人が作ったルール」なのだから自分たちの言葉に変えたい、ということが一つあるかと思います。そして戦後の特殊な時期に策定されたものから69年も経てば世の中の状況も変わり、当然、内容がマッチしないことも出てきます。それを修正する必要がある、というのも論点の一つであろうと思います。

改憲について日経のアンケートによると60代、70代が現状維持派が主流、30代から50代が改憲支持派が多数を占める、この点はなるほどと思います。が、18-29歳に於いて現状維持派が55%で改憲派が39%に留まっている点はどうでしょうか?

高齢者に現状維持派が多いのはその悲惨な過去を目のあたりにした、あるいは戦後の苦しい時代を比較的フレッシュな記憶として留めていることで、もうあのような時代には戻りたくないという気持が先行した表れでしょうか。一方、高度成長期を通じて世界の中の日本の位置づけ、あるいはアピアランスに強い自負を持つ世代はより現実的な考えを持っているのでしょう。

では20代の若者についてはどう説明できますか?私は典型的な「事なかれ主義」に見えるのです。「面倒なことはしたくない」「平和主義なんだからいいじゃん」「俺、戦争なんて行きたくないし」なのではないかと思うのです。言い換えれば、仮に憲法を書き換え、日本が武器を再び取るようなことになればこの若者たちがその最前線に行かざるを得ないもっと現実的な問題がその背景にあると考えられないでしょうか?

60年代にベトナム戦争に大きく反発したのはアメリカの大学生でした。国には厭世観が漂い、反戦ののろしは若者から生まれました。多くのロック歌手が曲に乗せてそのボイスを拡散させました。個人的には「シカゴ」の初期のアルバムがかなり強烈な印象として残っており、後年のあの甘いボーカル曲からは全く想像できない曲作りでした。

安倍首相の進めたい改憲の意図することは分かるのですが、国民レベルでその機運がほとんどないというのが現実なのではないでしょうか?ではその機運はそれなりの危機に面したら生まれるのでしょうか?私は疑問視します。理由は日本が既に十分に経済的にも社会的にも確立された国家として成長したことで「戦争」という言葉が呑み込めないからであります。

もう一つ、戦争の戦い方も変わってきています。かつては戦争とは地上戦でした。それは最も犠牲者が多くなる戦い方の一つであります。日本の戦国時代の多くの戦いは双方が正面からぶつかり合う、そして双方が果てしない数の犠牲者を出し、かろうじて相手の陣地を取るというまことに非効率な争い方でありました。

が、第二次世界大戦後半にB29の爆撃、そして原爆という兵器が飛び出した瞬間、戦い方が変わったと言えそうです。それ以降、大きな戦争は朝鮮戦争、ベトナム戦争でしたが、双方とも共産主義との戦いでした。これも終わり、今や、先進国のみならず、新興国でも直接的な戦禍に巻き込まれなくなったのはボタンを押せば「一発で終わり」の時代を迎えたからとも言えます。

つまり、若者よ、武器を取れ、という話は小説でしかなく、国家の国防省がSF映画のごとく、空中戦で勝敗が決まってしまうような兵器の進化が一つあるかと思います。

もう一つはイデオロギーの戦いからテロとの戦いに変り、見えない相手に対して戦意よりも恐怖心が先走っていることがあるかと思います。各地で頻発するテロに対して当事国はその犯人を捕まえているもののモグラたたき状態になっており、その撲滅に苦慮しています。

若者の考え方は日本のみならず、韓国でも中国でもアメリカでも欧州でも似ていると思います。韓国で徴兵をすませた若者たちが本気で武器を取れるかといえば私の見ている限り、とても弱々しく見えます。それは形だけで実態は腰が引けているその背景をもう少し分析しなければなりません。

9条を改正して武器を取る国になっても武器を誰も取りたがらないとすれば全く無意味な改憲になってしまいます。このギャップの大きさが安倍首相の声にどうしても現実味が出てこない一つの理由なのでしょう。私は改憲派の意図することは十分理解しています。が、実効性が伴わない改憲も無意味でしょう。

かつての戦争は国家が強大な権力を自在に行使し、国民の意思をほとんど反映させなかったからこそできた技です。憲法とは何でしょうか?国家権力から個人を守るものであります。アメリカの大統領選がこれほど荒れるのはなぜでしょうか?SNSを通じて国民のボイスが反映しやすくなっているからです。つまり、政府の我儘はいよいよ通らない時代に突入したともいえます。

折しも日本も18歳から選挙権が与えられます。高齢化社会を迎え、政治に対する意見の反映は高齢者に有利になるいびつさが今後より強まりますが、より多くの若者が国政を身近なものと感じることでバランスの取れた議論が出来るようになることが重要です。安倍首相は改憲に関して票読みをしているようですが、そういう問題ではなく、世論がどれだけ盛り上がるか、そちらが先決だろうと考えています。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月3日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。